ギボシムシ

改訂新版 世界大百科事典 「ギボシムシ」の意味・わかりやすい解説

ギボシムシ (擬宝珠虫)

ギボシムシ綱(腸鰓(ちようさい)綱)Enteropneustaに属する半索動物総称。すべて海産で,世界から80種ほどが知られている。体の前端にある吻(ふん)が橋の欄干擬宝珠に似ているところからこの名がある。海岸の有機質の多い砂泥中にU字形の穴をつくり,その中で生活する。

 体は細長い円筒状で,前体部の吻,中体部の襟部とそれより後方の後体部の3部分からなる。吻は卵形や円錐形をしていて,表面に密生している繊毛を動かして微小な動物やごみなどの餌を集め,吻と襟との間の腹面に開く口へ運ぶ。襟部に続く咽頭(いんとう)には10~80個のU字形の鰓孔(えらあな)が並んでいて,口から飲み込んだ水がこの鰓孔を通って外部に抜ける際に呼吸が行われる。このように消化管の一部がえらの役目をするので腸鰓類と呼ばれ,このような機能をもつ動物はほかに知られない。鰓孔の出口が直接体の表面に開いている場合と,体壁の中で互いに連絡して一つの共通の出口になっている場合とがある。口の背側から吻の内部に向かって小さい管状の食道盲囊があり,これが脊索に相当するものと考えて,原索動物に入れていたこともあった。食道盲囊の背側に心囊という袋があり,これが収縮して血液を体内に循環させている。

 雌雄異体。卵は粘液の塊に包まれ,大部分のものは浮遊性のトルナリア幼生になり,のち変態する。潮がひいたあと,地上に紐状の糞の塊をだしているのが見られる。また,虫体に刺激を与えると,ヨードホルムにおいがする。体は切れやすいが,再生する力が強い。

 ワダツミギボシムシBalanoglossus carnosus全長が1mにもなり,後体部の前方両側にはよく発達した翼状突起がある。ハネナシギボシムシGlandiceps hacksiは全長15~20cmで翼状突起はない。ミサキギボシムシB.misakiensisは全長約40cm。本州の太平洋岸の干潮線付近にすむ。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ギボシムシ」の意味・わかりやすい解説

ギボシムシ
ぎぼしむし / 擬宝珠虫

半索動物門腸鰓(ちょうさい)綱に属する海産動物の総称。虫体は細長い円筒形で、全長3センチメートル程度から2.5メートルに達する種まである。体表は繊毛と粘液とに覆われ、非常に軟弱でちぎれやすい。一般に黄白色。虫体は前方から吻(ふん)、襟、躯幹(くかん)に区分される。吻はどんぐり形で、和名はこれを擬宝珠(ぎぼし)に見立てたもの。短い襟および長大な躯幹の薄い壁に囲まれたまっすぐの腔所(こうしょ)が消化管で、口は吻の腹方に、肛門(こうもん)は躯幹の後端にそれぞれ開く。咽頭(いんとう)の左右各背側壁にU字形をした鰓裂が多数前後に1列に並ぶ。鰓裂は多くの場合、外界に直接開口することはない。

 雌雄異体で体外受精。有性生殖には、トルナリアtornariaとよばれる浮遊幼生期を経る間接発生と、それを経ない直接発生とがある。また、出芽による無性生殖も知られ、ヒメギボシムシPtychodera flavaのように高い再生能力をもつ種もある。砂泥中に潜み、体表の繊毛のおこす水流に運ばれてきた有機物細片を濾過摂餌(ろかせつじ)するほか、大量に飲み込んだ砂泥中の有機物をも食物として利用する。ワダツミギボシムシBalanoglossus carnosusは、U字形の巣穴にすみ、砂でできた紐(ひも)状の糞(ふん)を底表面に積み上げる。特有の強いにおい(近年、ハロゲン化フェノールやハロゲン化インドール類であることがわかった)を発し、また刺激により発光する種が多数知られている。

 これまでに3科12属73種が、熱帯から温帯の潮間帯および浅海を中心に、極地方を除く全世界の潮間帯から深海底まで知られている。日本近海には前述の2種のほかに、未記録種を含む相当数の種が生息する。

[西川輝昭]


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百科事典マイペディア 「ギボシムシ」の意味・わかりやすい解説

ギボシムシ

腸鰓(ちょうさい)類の半索動物の総称。体長15〜40cm,円錐状の吻(ふん)の後部に短い円筒形の襟(えり)があって長い胴に続く。体は切れやすいが再生能力が強い。すべて海生で,深海産もある。ミサキギボシムシは本州太平洋沿岸の干潮線付近に分布。有機質の多い砂泥中にU字形の穴をつくり,その中で生活する。虫体に刺激を与えると,ヨードホルムのにおいを発するのが特徴。

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