家庭医学館 「鼻過敏症」の解説
はなかびんしょうあれるぎーせいびえんけっかんうんどうせいびえん【鼻過敏症(アレルギー性鼻炎/血管運動性鼻炎) Allergic Rhinitis / Vasomotor Rhinitis】
[原因]
[症状]
[検査と診断]
[治療]
[予防]
[どんな病気か]
くしゃみ、鼻水(鼻汁(びじゅう))、鼻づまり(鼻閉(びへい))は、人体への異物の侵入を阻止(そし)し、排除しようとする防御のメカニズムです。
これらの症状が過剰に現われた状態を、鼻過敏症といいます。
鼻過敏症には、アレルギー性鼻炎と血管運動性鼻炎の2つがあります。
■アレルギー性鼻炎(せいびえん)(鼻(はな)アレルギー)
鼻の粘膜(ねんまく)を舞台にアレルギー反応がおこる病気で、くり返す発作性(ほっさせい)のくしゃみ、鼻水、鼻づまりの3つが主症状です。
外部から異物(抗原(こうげん))が侵入したときに、その抗原に対応する特定の抗体(こうたい)が体内に存在すると、抗原と抗体が結合し、抗原抗体反応(こうげんこうたいはんのう)がおこります(「免疫のしくみとはたらき」)。
抗原抗体反応がおこると、肥満細胞(ひまんさいぼう)や好塩基球(こうえんききゅう)などの細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が遊離(ゆうり)され、その作用でアレルギー反応がおこります。
これらの化学伝達物質が鼻の粘膜(ねんまく)の三叉神経(さんさしんけい)を刺激したり、自律神経(じりつしんけい)のバランスを崩して副交感神経(ふくこうかんしんけい)のはたらきを優位にするために、鼻のむずむず感やくしゃみ、鼻水の過剰分泌(かじょうぶんぴつ)などがおこります。鼻の粘膜の血管が拡張するために、鼻づまりもおこります。
■血管運動性鼻炎(けっかんうんどうせいびえん)(血管運動神経性鼻炎(けっかんうんどうしんけいせいびえん))
アレルギー反応の関与が証明できず、病気の原因がはっきりしないものの、鼻粘膜の自律神経の異常によって、くしゃみ、鼻水、鼻づまりといった、アレルギー性鼻炎と同じ症状を示す病気です。
[原因]
2つの鼻過敏症では、その原因もそれぞれ異なります。
アレルギー性鼻炎の原因 鼻から吸い込まれた抗原が、鼻の粘膜でアレルギー反応をおこして発症するので、空気中を浮遊(ふゆう)している抗原が原因となります。
代表的な抗原は、ハウスダスト(室内のほこり)や風媒花(ふうばいか)(風にのって花粉(かふん)をとばす花)の花粉などです。
ハウスダストは1年中存在しているため、季節に関係なく症状を発現させる通年性抗原(つうねんせいこうげん)の一種で、ほかにダニなども通年性抗原です。
花粉が抗原の場合は、たとえばスギは春、ブタクサは秋というように開花の時期に一致して症状が出現します。
また、花粉はその地域の植生や気象状況で飛散量が異なるため、花粉症が猛威をふるう年や地域にちがいのみられることがあります。
血管運動性鼻炎の原因 はっきりした原因は不明です。しかし、外気の急激な温度変化(暖かい部屋から出て、外の冷たい空気に触れるなど)、たばこの煙や化粧品の吸入、飲酒、精神的ストレス、妊娠(にんしん)などが刺激となり、鼻の自律神経のはたらきが異常になっておこると考えられています。
●誘因
近年、鼻過敏症が増加していますが、その誘因には、体質や遺伝的素因(いでんてきそいん)としての内因と、環境や栄養などの外因とがあります。
内因 アレルギー性鼻炎の人の家系調査の結果、アレルギーの体質が遺伝しているという報告があります。
また、抗原抗体反応に関係なく、鼻粘膜の過敏性や化学伝達物質の遊離、自律神経のバランスの崩れやすさも遺伝するといわれています。
外因 鉄筋コンクリートやサッシ窓による気密性の高い住宅の出現、冷暖房の整備など、室内環境がダニの繁殖(はんしょく)に適したものとなり、ダニの数が増えています。また、スギ植林面積の増加によってスギ花粉も増えています。
このような抗原の増加も、アレルギー性鼻炎増加の誘因の1つと考えられています。
自動車(とくにディーゼル車)の排気中の物質が、抗体の産生を促す方向にはたらくという報告もあります。また、排気ガスや塵埃(じんあい)などの大気汚染物質(たいきおせんぶっしつ)のほか、たばこの煙も、鼻過敏症の増加に関係しているといわれています。
そのほか、高たんぱく・高栄養の食事が抗体の産生に結びつくともいわれ、ストレスの増加による自律神経のバランスの崩れも誘因と考えられています。
[症状]
くしゃみ、鼻水、鼻づまりがおもな症状です。
鼻づまりがひどくなると、鼻での呼吸が十分にできなくなり、口で呼吸するようになります。そのため、のどの痛みやいびき、不眠、注意力散漫などの症状が出ることもあります。
アレルギー性鼻炎では、結膜炎(けつまくえん)(アレルギー性結膜炎(「アレルギー性結膜炎(アレルギー性鼻結膜炎)」))を合併することも多く、目のかゆみや充血(じゅうけつ)、流涙(りゅうるい)がみられることもあります。
[検査と診断]
まず、くしゃみ、鼻水、鼻づまりの3つの症状がいつおこるか(たとえば1年中とか、春の季節とか)を調べます。
それをもとに、アレルギー性鼻炎かどうか、もしそうならば原因となる抗原はなにかを検査します。
①鼻汁検査
鼻汁の中の好酸球(こうさんきゅう)という細胞の有無を調べます。
抗原抗体反応がおこると、鼻汁中の好酸球が増加する(花粉などによる季節性アレルギーの場合、その季節でない時期は好酸球は増加しない)ので、アレルギー性鼻炎の診断の助けになります。
②特異的(とくいてき)IgE抗体検査(こうたいけんさ)
抗原抗体反応をおこす抗体(IgE抗体)が、血液中にどの程度含まれているか、採血して調べます。
③皮膚テスト
可能性のある抗原のエキスを、皮膚に注射するか、皮膚につけた引っかき傷に滴下(てきか)して反応を調べます。15分後に、皮膚が赤く腫(は)れる程度で判定します。
④鼻粘膜誘発(びねんまくゆうはつ)テスト
可能性のある抗原エキスのしみこんだ小さな紙を鼻の粘膜にはりつけ、反応を調べます。5分後にくしゃみ、鼻水、鼻づまりがどの程度出現するかで判定します。
●診断
検査で①、②または③、④の3つのうち2つ以上が陽性の場合に、アレルギー性鼻炎と診断します。
アレルギー性鼻炎の症状があるにもかかわらず、検査結果が陰性であれば、血管運動性鼻炎と診断します。
[治療]
医師による長期間の経過観察が必要です。症状を抑える薬を使用すると、そのときは改善しても、再発することが多く、完全に治ることがむずかしいからです。医師とのコミュニケーションをよくし、病気や治療についてよく話し合い、患者さんが積極的に参加できるようなプログラムで治療を進めるのが理想です。
●アレルギー性鼻炎の治療
まず抗原の除去、回避に努力します。
ハウスダストやダニが抗原であれば、室内の清掃をまめに行ない、ふとんやまくらに防ダニカバーをつけ、空気清浄器(くうきせいじょうき)を使用するのも有効です。
花粉が抗原であれば、飛散期の外出をできるだけ控え、マスクやめがねで花粉との接触を避けることに努めます。
減感作療法(げんかんさりょうほう) 抗原にからだを慣れさせ、抗原に接しても症状をおこしにくくする治療です。現在のところ、長期にわたって症状の出現を抑えることが可能な唯一の方法です。
週に1回くらいの割合で抗原希釈液(こうげんきしゃくえき)を注射し、徐々に濃度を濃くしていく治療を2~3年続けます。
最近、長期にわたる通院の負担を軽減するのを目的として、急速減感作療法がいくつかの医療機関で行なわれています。副作用の出現も危惧(きぐ)されるため入院して行なう場合もありますが、従来の減感作療法と同じか、それ以上の効果があるといわれています。
薬物療法 ヒスタミンなどの化学伝達物質の作用を抑える抗ヒスタミン薬や、化学伝達物質の遊離を抑えるいわゆる抗アレルギー薬、副腎皮質(ふくじんひしつ)ホルモン薬、自律神経薬(じりつしんけいやく)などを、症状やその他の状況に応じて使用します。
●血管運動性鼻炎の治療
アレルギー反応でおこっているものではないので、症状を抑える対症療法が主体になります。抗ヒスタミン薬、副腎皮質ホルモン薬、自律神経薬などを使用します。
手術療法 薬物療法に効果を示さない場合、とくに鼻づまりに対して行ないます。鼻の粘膜の一部を切りとる鼻粘膜切除術(びねんまくせつじょじゅつ)、鼻の粘膜の一部を固める電気凝固術(でんきぎょうこじゅつ)、レーザー手術、凍結手術(とうけつしゅじゅつ)があります。レーザー手術は、鼻粘膜切除術に比べて出血や痛みが少なく、入院も必要としないので、近年、注目されるようになりました。
鼻水に対しては、副交感神経を切断するビディアン神経切断術が行なわれることがありますが、合併症があるので、積極的には行なわれていません。
[予防]
アレルギー性鼻炎では、抗原との接触を避けることが重要です。花粉によるアレルギー性鼻炎は、症状の発現に気象状況が大きく関係するので、天気予報に注意しましょう。社会問題ともなっているスギ花粉症は、飛散シーズンになると花粉情報をテレビや新聞で流していますので、役立てたいものです。
鼻過敏症の人は、ストレスや自律神経の影響を避けるため、規則正しい生活と、バランスのとれた食事を心がけましょう。薄着や乾布(かんぷ)まさつ、冷水浴(れいすいよく)などの皮膚の鍛錬(たんれん)は、自律神経をきたえることになり効果があります。
また、運動も血行(けっこう)をよくし、体力を増進させて有効といわれています。