獣肉または魚介肉より水溶性の成分として抽出されるもの。単にエキスともいう。生物の組織や食品を磨砕し,水や熱湯で抽出すると種々の成分が溶出してくる。この中には,タンパク質,脂質,色素,多糖類の一部も含まれるが,通常これらの成分を除いた遊離アミノ酸,低級ペプチド,ヌクレオチドとその関連物質,各種の有機塩基などの含窒素化合物と低分子の有機酸および糖などの無窒素化合物の混合体をエキス成分extractive componentsと称している。これらはいずれも呈味成分として知られており,うま味に富み,スープベースやだしとして古くから用いられてきた。
欧米においては各家庭特有のブイヨンbouillon(牛肉,鶏肉などでとっただし)をつくり,スープ,ソースなどのベースとして用いており,東洋においても,中国料理では豚骨,鶏がらあるいは魚介類などでとっただしが湯(タン)などのベースとして昔から利用されている。日本でも,カツオ,コンブなどの煎汁(いろり)が昔から利用され,これが鰹節やだし昆布などの調味用食品として発展してきた。
現在では,各種の市販の肉エキスが加工食品の調味料として広く用いられている。肉エキスの製造は,抽出,精製,濃縮の工程からなる。良質のエキスを製造するには,鮮度のよい原料を用い,うま味成分が分解しないように濃縮し,臭気成分,脂質,不溶性物質をできるだけ除去することが必要である。畜肉エキスのうち,牛肉エキスとしては,コンビーフ製造の副産物でゼラチン含量の少ないリービヒミートエキスが代表的であるが,ゼラチンを多量に含むものとして,ダイレクトエキスが知られている。このほか,鶏肉エキス,鶏がらエキス,ウシ,ブタの骨髄エキスもある。
魚介肉エキスは表に示すように種類が多い。これらのエキスは価格が比較的安いため,エキスの製造のためだけに魚介肉を原料として使用することは少なく,食品加工の際に得られる煮熟液などが主として利用される。たとえば,鰹節製造の際の煮汁を濃縮したカツオエキス(焼津),せんじ(鹿児島),カキ缶詰製造時の煮汁を原料としたカキエキス(広島,長崎など)が古くから調味料として市販されている。最近は原料難のため製造量が減少しているが,鯨肉エキスはイワシクジラ,マッコウクジラの赤肉を原料として製造されてきた。このほか大豆,酵母,魚粉などのタンパク質を酸で加水分解するとアミノ酸液がえられるが,これらを添加した肉エキスも多い。肉エキスは微生物の培養基などにも用いられる。
執筆者:山口 勝巳
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
肉を湯煮したときに溶け出てくる成分のことで、肉スープの水分95%のものを数段階の過程を経て、18%くらいまで真空濃縮したものをいう。これは食品添加物として、インスタント食品の味の向上に用いられることが多い。肉のエキス分は肉中に約2%含まれ、このうち有機物は0.7%、無機物は1.3%で、タンパク質はほとんど含まれない。有機物のうち含窒素化合物はクレアチン、クレアチニン、プリン塩基、カルノシン、尿素、イノシン酸などで、無窒素有機物は乳酸、グルコース、グリコーゲンなどが含まれる。無機質としてはナトリウム、カリウム、カルシウム、鉄、塩素、リン、硫黄(いおう)、マグネシウムなどがある。湯煮の温度、時間などによって、仕上がりは微妙に変化し、適当なものは肉の味と香りをもつ赤褐色のペーストとなる。
[小林文子]
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