フェノキシ酢酸系除草剤。実用的除草剤第1号になった,歴史的にも重要なものである。2,4-dichlorophenoxyacetic acidの略で2,4-PAともいう。1942年アメリカのボイストムソン研究所のツィンマーマンP.W.Zimmermannが,合成オーキシン類についてオーキシン活性を追究している過程で,2,4-Dが低濃度で強力なオーキシン活性を,高濃度では殺草活性を示すことを見いだしたことが端緒となって,実用除草剤として開発されるに至ったのである。ナトリウム塩,アミン塩,エチルエステルなどの誘導体として用いられる。
2,4-Dは,イネ科植物に比して広葉雑草に対する除草活性が強力なので,田植え後,主として20~35日くらいの除草に用いられる。適用雑草は,コナギ,ウリカワ,オモダカ,アゼナ,ヤナギタデ,ミゾハコベ,アゼムシロ,イヌノヒゲ,タマガヤツリなどの水田雑草である。
典型的なホルモン型除草剤で,植物体内で植物ホルモンのオーキシンによる正常な生長・分化などの生理現象の制御をかく乱することによって除草作用を発現する。すなわち,植物体では真性オーキシンであるインドール酢酸などを必要な濃度に保つ制御機構が働いているが,施用された2,4-Dなどの合成オーキシンにはこのような制御機構が働かず,ホルモン活性物質のバランスが乱れて殺草効果が発現すると考えられている。また広葉雑草とイネ科植物との間の2,4-Dの選択性の発現は,2,4-Dの両種植物への吸収速度の差よりも,植物体内における移動速度が,広葉植物において大きいことによるものと考えられている。
2,4-Dと同系列の除草剤であるMCP(商品名MCP,ヤマクリーンM)は2,4-Dと類似の除草活性を示し,また2,4,5-Tは非耕地,林地の灌木の殺草に用いられたが,現在は非登録となっている。2,4-DやMCPの酢酸残基の代りに酪酸基を有するMCPB(商品名トロポトックス)は,マメ科雑草に選択毒性を示すので,それらの除草に用いられる。
2,4-Dの哺乳動物に対する急性毒性は,50%致死量LD50=560~680mg/kg(マウス,経口)である。
執筆者:高橋 信孝
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2,4-dichlorophenoxyacetic acid(2,4-ジクロロフェノキシ酢酸)の略称.C8H6Cl2O3(221.04).アルカリ性溶液で,2,4-ジクロロフェノールとモノクロロ酢酸との反応,またはフェノキシ酢酸の塩素化によって合成される.融点138 ℃,沸点160 ℃(53 Pa).水に難溶.広葉雑草の選択的除草剤.Na塩:水田除草用.アミン塩:ジメチルアミン,イソプロピルアミン,トリエタノールアミン,トリエチルアミン,ジエタノールアミン塩などがある.Na塩よりも速効性がある.エステル:エチル,イソプロピル,ブチルエステルは水に不溶.乳剤,水和剤として除草力がもっとも強い.奇形児の誕生など人体への悪影響が大きいため,現在では使用が禁じられている.LD50 375 mg/kg(マウス,経口).[CAS 94-75-7]
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…オーキシン類は脱分化,再分化において,組織の脱分化誘導や細胞群を脱分化の状態に保つ役割を果たす。 IAAが発見されてから,多数のIAA関連化合物が合成され,2,4‐ジクロロフェノキシ酢酸(2,4‐D)や,α‐ナフタレン酢酸(NAA)などオーキシン活性の高い合成オーキシンが見いだされた。2,4‐Dは低濃度では強いオーキシン活性を示すが高濃度では殺草活性を示し,実用化された最初の除草剤となった。…
…このほかリゼルギン酸ジエチルアミド(LSD‐25ともいう)は謀略的に使用される。 対植物剤として除草剤2,4‐D,2,4,5‐Tなどがある。アメリカ軍はベトナム戦争においてゲリラの隠れ家と食糧源を破壊する目的で〈枯葉作戦〉を実施,大量の除草剤(枯葉剤と呼ばれた)を散布した。…
…古くは農業における雑草の防除は主として人力によって行われていたが,省力化のため除草剤の開発に対する要求が高まり,その開発研究が急速に進められた。除草剤として無機塩を用いる試みもなされたが,合成オーキシ(植物ホルモンの一種,〈オーキシン〉の項目を参照)の活性を追究する過程で,2,4‐ジクロロフェノキシ酢酸(2,4‐D)が低濃度では強力なオーキシン活性を,また高濃度では殺草活性を示すことが見いだされ,除草剤の開発研究に新しい局面が展開することになった。その後の開発研究によって,2,4‐Dは実用除草剤第1号として広く利用されるようになり,またそれ以降多種類の除草剤が開発されるに至った。…
※「24D」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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