国際決済銀行Bank for International Settlementsの略称。〈ビス〉ともいう。1930年1月,第1次大戦の戦敗国ドイツから賠償金を取り立て関係国に分配する機関としてスイスのバーゼルに設立され,同年5月から業務を開始した。参加国は,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,ベルギー,スイス,日本の7ヵ国。その後機能を拡大し,各国中央銀行相互間の資金決済や,金融,経済情勢に関する意見交換の場となった。しかしドイツの賠償金が当初案に比べ大幅に削減されたうえ,30年代後半から各国が金本位制を離脱するなど国際金融面での協調体制が弱まるにつれて,BISの活動範囲は縮小した。1944年7月に開催されたブレトン・ウッズ会議では,IMF,世界銀行の設立に伴い,BISは清算すべしとの勧告が行われたが,結局勧告は実施されなかった。50年にヨーロッパ諸国間の貿易取引を促進するため欧州支払同盟(EPU)が発足した際,参加国間の債権債務決済業務がBISに委託された。その後EPUが発展的に解消し58年ヨーロッパ通貨協定(EMA)が発足した後も,BISはその業務代行機関となった。さらに79年発足したヨーロッパ通貨制度(EMS)の業務も代行することになった。
現在のBISの主要業務には,こうした国際機関の決済事務のほか,金取引,各国中央銀行からの預金受入れ等がある。さらに国際金融の実務のみならず,先進国中央銀行間の政策協調の場として,国際金融の安定化に寄与している。その代表的な例は1960年代から70年代にかけての再三にわたるイギリスのポンド危機に際しての支援措置である。これはバーゼル協定Basel agreementと呼ばれ,主要国中央銀行とBISがイングランド銀行に対してスワップ取決めにより資金供与を行うものである。第1次は66年6月から68年9月までで,信用供与額は10億ドル,9ヵ国(オーストリア,ベルギー,カナダ,西ドイツ,イタリア,日本,オランダ,スウェーデン,スイス)の中央銀行およびBISが参加した。第2次は68年9月から73年9月までで,総額20億ドル,12ヵ国(上記9ヵ国にアメリカ,ノルウェー,デンマーク)の中央銀行が参加した。第3次は77年2月から79年2月までで,総額30億ドル,第2次取決め参加国のうちイタリアを除く諸国の中央銀行が参加した。いずれの場合も,協定参加中央銀行とイングランド銀行との間のスワップ協定がBISを通じて実行される形をとった。
また,1982年8月に始まったメキシコの外貨危機に際し,BISはアメリカ,日本など主要先進国の中央銀行の協力のもとで,総額18.5億ドルの緊急融資を実施し,IMFによる資金援助が行われるまでの間,国際的信用不安の波及の防止に努めた。
1970年代に各国の銀行の国際的活動が活発化するにつれ,それに伴うリスクの国際的波及を避けるため各国の銀行監督体制の強化改善を目的として,74年BIS内に銀行規制監督委員会が設置された。同委員会は各国銀行の自己資本充実のため,国際業務を営む銀行の自己資本比率に関する統一的な規制を検討し,88年7月に中央銀行総裁会議で正式に合意された。その内容は,まず自己資本を基本的項目(株式資本,公表準備金)と補完的項目(非公表準備金,一般引当金,劣後債等)に分け,前者については無制限とし,後者については自己資本への算入限度を前者と同額までとする。なお日本については,決算期末における有価証券含み益の45%相当額が後者に算入されることになった。一方,自己資本比率の分母に当たる総資産については,取引相手の信用リスク度に基づいてウェイトが付されるリスク・アセット方式が採られた(例えば,現金,自国の中央政府・中央銀行向け債権は0%,国際機関,自国およびOECD諸国の銀行向け債権は20%,住宅ローン50%,その他の民間向け債権は100%等)。そのうえで,各国の国際業務を営む銀行は1992年末(日本は1993年3月末)までに,この自己資本比率を8%以上とすることが定められた。これがいわゆるBIS規制である。
BISに出資している中央銀行は,1995年の時点では,イギリス,フランス,ドイツ,イタリア,ベルギー,オランダ,スウェーデン,スイス,アメリカ,カナダ,日本など32ヵ国であったが,96年9月中央銀行相互の協力体制強化の方針が理事会で決定され,9ヵ国・地域の中央銀行ないし通貨当局が新たに出資した(ブラジル,中国,香港,インド,韓国,メキシコ,ロシア,サウジアラビア,シンガポール)。さらに97年末までにボスニア・ヘルツェゴビナ,クロアチア,マケドニア,スロベニアの中央銀行が加わった。2005年現在の出資国は55ヵ国・地域。日本は,1951年対日平和条約に基づき保有株式を放棄したが,64年から専門家会議に出席を開始,67年9月からは月例総裁会議への出席を開始し,70年1月BISに対する出資が発効して正式に加盟した。
執筆者:武田 哲夫
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(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)
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(2014-2-17)
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