E型肝炎ウイルス(読み)イーガタカンエンウイルス

デジタル大辞泉 「E型肝炎ウイルス」の意味・読み・例文・類語

イーがたかんえん‐ウイルス【E型肝炎ウイルス】

E型肝炎の原因となる肝炎ウイルスRNAゲノムとするRNAウイルス。水や食物を介して経口感染する。感染一過性慢性肝炎には移行しないが、重症化することがある。主な流行地は東南アジア北部中部アフリカインド、中央アメリカなど。日本や欧米などの非流行地域でも時折発生するが、これはブタイノシシシカなどの生肉が感染源と考えられている。HEV(hepatitis E virus)。

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内科学 第10版 「E型肝炎ウイルス」の解説

E型肝炎ウイルス(肝炎ウイルス)

(5)E型肝炎ウイルス(hepatitis E virus:HEV)
1)背景:
E型肝炎ウイルス(HEV)は急性E型肝炎を引き起こす病原体で,アジア,アフリカおよび中米などの発展途上国など,下水道の完備していない地域に常在している. わが国においても,2001年に海外渡航歴のない原因不明の急性肝炎症例から国内型HEV株が分離され報告されたことが端緒となり,国内型E型急性肝炎の報告が相次いだ.また,ヒト以外のシカ,イノシシ,ブタといった動物にHEVが感染している知見も得られ,さらにそれらからヒトへの感染も証明され人畜共通感染症であることと国内にも今やHEVが常在していることが明らかになった.
2)構造:
HAVに比べ肝臓での増殖力は弱く,感染性も低いと考えられている.HEVのウイルスゲノムは7.2 kbp,1本鎖RNAで,直径27~32 nmの球状粒子である.エンベロープはなく,ヌクレオカプシド(コア)のみからなる.構造蛋白のエピトープを用いたHEV抗体アッセイ系はすでに確立されており,構造蛋白の発現蛋白や,ウイルスの継代細胞培養によるワクチン開発も行われている.
3)感染様式:
HEV感染は多くの場合,経口感染で,不顕性で経過するが,感染者の一部は2~9週の潜伏期を経て急性肝炎を発症する.患者の末梢血液中および糞便中で発症に先立ってHEV-RNAが検出される.急性肝炎発症時,患者の末梢血液中ではIgM,IgA,およびIgGクラスのHEV抗体がすでに陽転している.HEV感染は一過性であり,感染が持続,慢性化することは一般的にはないが,免疫不全状態では慢性化することもある.症状の快方に伴って末梢血および糞便中のHEVは消失する.その後,IgMクラスのHEV抗体の濃度は低下し陰性化するが,IgA,IgGクラスの抗体は長時間持続する.IgAクラス抗体測定系はすでに実用化されている.
4)遺伝子型:
現在までに4つの遺伝子型の存在が確認されているが,世界的にさらに存在する可能性が高い.臨床的には,1型と2型がヒトに特異的に感染し,3型と4型がヒトと動物(特にブタ)の両者間で交互に感染しうる.[溝上雅史]
■文献
Hollinger FB, Ticehurst J: Hepatitis A virus. In: Virology, 2nd ed(Fields DM ed),pp631-670, Raven Press, New York, 1990.
加藤宣之,土方誠也:ウイルス複製と遺伝子発現,C型肝炎ウイルス.蛋白質核酸酵素,37(10月増刊号):2626-2632, 1992.
岡本宏明,真弓 忠:肝炎ウイルスと肝炎の発症機序,B型.最新内科学大系 48,ウイルス肝炎—肝感染症(井村裕夫,尾形悦郎,他編),pp12-39,中山書店,東京,1991.

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