異なる2通貨の交換比率のことで、その国の通貨の対外価値を表す。変動為替相場制を採用している国の場合は、外国為替市場における外貨(外国為替)の需給によって決定されるのに対し、固定為替相場制の場合は、その国の通貨当局が対外的な国際競争力等を勘案して、特定通貨(基準通貨)に対して恣意的に設定する平価が為替相場となる。
[中條誠一]
商品の値段と違って、為替相場の場合は、交換される二つともが通貨であるため、建て方が2通りある。
一つは、自国通貨1単位が外国通貨でいくらに相当するかという表示方法で、外貨建て相場という。
もう一つは、外国通貨1単位が自国通貨でいくらに相当するかという表示方法であり、邦貨建て相場とよばれる。建て方は国により、また時代によって異なる。一般には、イギリス、アメリカ、ユーロ域のような基軸通貨国または基軸通貨であった国では外貨建てが採用され、ほかのほとんどの国では邦貨建てとなっている。日本では第二次世界大戦前は外貨建てであったが、戦後は邦貨建てとなった。
為替相場の変化は、邦貨建てと外貨建てでは逆になって現れる。たとえば、円・ドル為替相場において、円の上昇(円高)といえば、邦貨建てでは数値の減少、外貨建てでは数値の増加となって現れる。したがって、為替相場の変動は、数値の増減ではなく、どちらの通貨価値の上昇・下落(増価・減価)かを明確に表現することが望ましい。
[中條誠一]
外国為替市場には、小売市場ともいうべき対顧客為替市場と卸売市場にあたる銀行間為替市場があり、それぞれの為替相場が建値されている。企業や個人が対外取引を行うために、銀行と外貨を売買する市場が対顧客為替市場であり、その時に適用される相場が対顧客為替相場である。これに対して、銀行は顧客から買った外貨を処分したり、顧客に売る外貨を調達するために、銀行間為替市場を形成しており、そこでの相場が銀行間為替相場である。
銀行間為替相場は、外国為替の需給を反映して、刻々と変動しており、一般にマスコミで報道される為替相場がこれにあたる。この卸売市場での相場がベースとなって、これに種々の手数料や金利を加味して、銀行が顧客に外貨を売買する小売の対顧客為替相場を提示するが、それは一般的には1日中変更されることはない。主な対顧客為替相場としては、次のものがある。
(1)TTB(Telegraphic Transfer Buying Rate)とTTS(Telegraphic Transfer Selling Rate)
電信買相場、電信売相場とよばれるもので、外貨と円貨の受け渡しが電信で同時に行われるため、銀行にとっては資金の立替払いが発生しない場合に適用される為替相場である。銀行間為替相場を仲値として、日本での円・ドル為替相場であれば、通常はTTBは1円マイナス、TTSは1円プラスされたものとなっている。
(2)Credit At Sight Buying
信用状付一覧払い輸出手形買取相場とよばれ、銀行はこの手形を買い取った後、信用状発行銀行に郵送して決済を受けるまで(メール期間)につき立替払いが発生するため、その間の金利を調整した為替相場となる。
(3)Credit Buying 30d/s
信用状付の期限付輸出手形買取相場のことであり、一覧後30日といったユーザンス(支払猶予期間)が設定されているため、さらにその間の金利を調整した為替相場となる。
(4)Acceptance
信用状付一覧払い輸入手形決済相場とよばれ、輸出地の銀行が日本の信用状発行銀行の口座から輸出代金を引き落とした後、メール期間を経て、日本の銀行が日本の輸入者から一覧払いで代金を受け取るため、TTSにその期間の金利を調整した為替相場となる。
[中條誠一]
銀行間市場、対顧客市場を問わず、直物取引と先物取引(正確には、取引所での先物取引future transactionと区別し、銀行との相対取引の場合は、先渡取引forward transactionという)の2種類があり、それぞれ直物相場、先物相場が建値されている。
直物取引は、売買契約と同時に資金の受渡しが行われる取引をいい、その時適用されるのが直物相場である。ただし、銀行間市場においては、時差や事務処理の関係で、2営業日後に実行されることになっている。
先物取引は、将来の通貨の受渡しを、あらかじめ現時点で約束する取引であり、先物予約ともよばれる。受渡しがなされる期日によって、1か月先物、2か月先物とよばれ、通常1年先物まで相場が提示されることが多い。本来は、貿易業者などが対外取引の契約時点で、先物相場によって先物予約をしておけば、その後の決済日に為替相場がどのように変動していようとも、為替リスクを被ることなく、安定的な取引が可能になるというヘッジのために創出されたものである。しかし、同時に実需取引をもたない投機家が、わずかの資金で大きな先物取引を行い、多大なリスクを負って巨額の投機益を追求する場ともなっている。
この直物取引と先物取引を別々に行う取引(アウトライト取引)以外に、直物売り・先物買い、直物買い・先物売りというように反対の直先取引をセットで行う取引(外国為替のスワップ取引)が、外国為替市場でもっとも大きな取引になっている。それは、銀行が日々為替持高操作と資金操作において使用していることにもよるが、基本的には外国為替市場で、ヘッジや投機目的以上に、外国為替のスワップ取引を伴う金利裁定を目ざした取引が多いことを反映している。
まったくリスクを負うことなく、内外金利差と直物相場と先物相場の格差率(直先スプレッド)の歪(ゆが)みを利用して、小幅ながら確実に利鞘(りざや)を獲得できる金利裁定取引が絶えず行われるならば、原則として直物相場と先物相場は、内外金利差の幅をもって、あたかも電車の線路のように並行して動くことになる(金利平価説)。
[中條誠一]
為替相場は各国通貨間で多角的に形成されるが、その際には米ドルのような基軸通貨との為替相場を基準として、計算されることが多い。たとえば、日本で円とユーロの為替相場を求める場合は、円の対ドル為替相場1ドル=100円(基準為替相場)とユーロの対ドル相場1ユーロ=1.2ドル(クロス・レート)から、1ユーロ=120円と計算され、これを裁定為替相場という。
しかし、実務界ではこれと異なり、基軸通貨米ドル以外の通貨同士の為替相場のことをクロス・レートとよぶことが一般化しているようである。つまり、上のようにして計算された1ユーロ=120円という裁定為替相場のことをクロス・レートということが多い。また、ヨーロッパの外国為替市場で、米ドルが為替媒介通貨の地位を失い、米ドル以外の通貨同士の直接取引が徐々になされるとともに、これをクロス取引、そこで成立する為替相場をクロス・レートとよんでいる。
[中條誠一]
通常の為替相場を実質為替相場と区分して議論するために、あえて名目為替相場ということがある。これに、2国の物価の動きを加味して、両国の真の価格競争力を示したものが実質為替相場である。たとえば、円・ドル為替相場(名目為替相場)が10%円高に変動したとすると、日本の商品はドル表示で10%割高になり、その分競争力が減退する。しかし、その間にアメリカの物価が日本の物価に比べ、5%上昇したとすると、実質為替相場は5%の円高ということで、日本の商品は5%の競争力低下にとどまったことを表す。
主要先進国が変動為替相場制にあるなかで、たとえば日本の円がどのように変化しているのかを知るためには、円・ドル為替相場の動きだけでは不十分である。そこで、ドル以外の通貨との動きも加味し、全体的な動きを示したものを実効為替相場という。そのためには、通常各名目為替相場に日本の各国別対外貿易シェアなどのウエイトで加重平均をして計算している。さらに、各国との物価の動きも考慮するために、各国との実質為替相場をウエイト付けして集計したものは、実質実効為替相場とよばれる。
[中條誠一]
『木下悦二著『外国為替論』(1991・有斐閣)』▽『サム・Y・クロス著、国際通貨研究所訳『外国為替市場の最新知識』(2000・東洋経済新報社)』▽『平島真一編『現代外国為替論』第3版(2004・有斐閣)』▽『上川孝夫・藤田誠一・向壽一編『現代国際金融論』(2007・有斐閣)』▽『国際通貨研究所編『外国為替の知識』(日経文庫)』
「為替レート」のページをご覧ください。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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