青果や水産物、肉などの生鮮品を生産者から集荷し、小売業者などに供給する市場。広域的な流通の拠点として国が認定している中央卸売市場と都道府県が認定する地方卸売市場があり、そのうち自治体が運営する公設卸売市場は全国に約200カ所ある。農林水産省によると、中央卸売市場の取扱金額は2006年度の4兆6796億円から19年度の3兆5767億円に減少している。
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最も広義には,生産者と販売業者,販売業者相互,または販売業者と産業用需要者の間における取引,すなわち卸売取引が行われる空間的・時間的な広がりを意味する。しかし,一般的には,具体的な施設と制度を有して恒常的な卸売取引がなされる場(具体的市場)を指す。なかでも,青果物(野菜,果物),水産物,食肉といった生鮮食料品を中心とした商品について,現物を眼前に置きながら取引をする具体的な場所とそこにおける取引制度を称することが多い。その場合には,卸売市場(いちば)とも呼ばれる(〈青果市場〉〈青物市〉〈魚市場〉〈魚市〉の項目参照)。
青果物,水産物などの多くは,品質・サイズ・重量など,価格を決定する際の諸要素を規格・統一化しにくいという特性がある。そのため,現物を1個ずつ評価しながら価格を決定していくという方法が適している。また,大半の生産者が小規模であり,かつ生産品目(品種)が地理的条件などに規定されてしまっているために,各地の多数の生産者の商品を集荷しないと需要を満たしえない。そのうえ,生産量が天候などの自然条件に大きく左右され,かつ保存が困難な商品が多いために,需要と供給のバランスはきわめてとりにくい。そこで,生鮮食料品などの取引では,多数の生産者(またはその代理人)が商品を持ち寄り,多数の小売商(またはその代理人)との間で,日々の需要量と供給量を斟酌(しんしやく)しながら現物を評価して,価格の決定,所有権の移転,現物の受渡し,代金の授受まで一気に行ってしまうような施設・制度が,日本に限らず各国において,歴史的に成立してきた。それが,ここでいう卸売市場である。日本において制度として確立している卸売市場は,生鮮食料品および花卉(かき)(花卉市場)を取り扱うものであるが,ヨーロッパなどでは,そのほかに穀類や乳製品などを取り扱うものもある。
生鮮食料品などの現物を眼前に置きながら取引をする場としての市(いち)ないし市場(いちば)の歴史は,洋の東西を問わず古い。日本では,すでに《魏志倭人伝》にみえているし,石川県輪島の朝市は奈良時代から今日まで継承されているといわれる。ヨーロッパにおいても,パリには,すでに1000年前後にセーヌ河畔にパリュ市場が存在したといわれ,また,“パリの胃袋”と称され,1969年にランジスに移転するまでパリ市民への食料品供給の拠点であったレ・アル・サントラル(中央市場)は,1183年にラシャと織物の市場として始まり,90年に食料品取引のための施設が設けられて以来,フランスにおける食料品流通で中心的役割を果たしつづけてきた。ただ,いずれの国・地域においても,卸売取引と小売取引が明確に分離されるのはかなり後になってであり,当初の市場は卸・小売両取引が混在した形になっていた。日本において卸売取引専門機関としての市場が確立するのは,戦国末期から江戸初期以降のことである。パリのレ・アル・サントラルの場合,卸売市場としての概念を明確にするのは,1896年の法律による市場制度の改革以降であるともいわれる。
日本では,江戸時代に卸売市場として確立して以降,明治・大正時代を通じ,多数の小規模問屋が市場に集積し,生産者ないしその代理人から個別に商品の販売委託を受け,個々に相対(あいたい)取引で仲買人か小売商に販売するという取引形態がとられていた。そうした取引形態自体は欧米の大半の卸売市場のそれと類似しているが,日本の場合,問屋が著しく前近代的な性格を帯び,取引の非公開性にことよせて不正が横行することとなった。明治末年以後,そうした不正は,単に生産者・消費者の不利益となるだけでなく,安価な労働力によって国際市場に参入しようとしている日本資本主義そのものにとって弊害であり,近代的卸売市場制度の確立が急務であるという論議が盛んになる。とくに,1918年に発生した米騒動への対応策として,時の政府は,食料品価格の引下げ・安定化を図るために,食料品を中心とした小売店の集合施設である公設小売市場の建設を進めるとともに,小売市場への配給の円滑化と卸売価格引下げの目的をもって,中央卸売市場構想を打ち出す。それが,23年に〈中央卸売市場法〉として成立し,以後,27年の京都市に始まり,高知市(1930),横浜市,大阪市(ともに1931),神戸市(1932),東京府の築地,神田,江東の3市場,鹿児島市(ともに1935)と,各地に中央卸売市場が建設されていく。しかし,同法では中央卸売市場以外については規定しておらず,そのために,中央卸売市場以外の卸売市場(類似市場)が乱立し,生産者等との間でも問題が生じてきた。そこで,71年に前法を廃止し,新たに〈卸売市場法〉を制定して,卸売市場全般を規制するとともに,市場整備を計画的に促進することとなり,今日に至っている。
卸売市場は具体的な施設・制度を有するから,そうした施設を設置・所有し,管理するものが必要となる。それを〈開設者〉という。また施設を利用して売買取引に従事するものを〈市場業者〉と呼ぶ。市場業者は,(1)出荷者(生産者またはその代理人)から生鮮食料品等の販売委託を受け,これを仲卸業者(いわゆる仲買)および小売商等の売買参加者に販売する〈卸売業者〉,(2)卸売業者から買い入れたものを市場内の店舗で小売商,大口需要者等に販売する〈仲卸業者〉,(3)卸売業者または仲卸業者から生鮮食料品等を購入する小売商および大口需要者,から構成されている。そして,一般的には,卸売業者と仲卸業者や売買参加者との間における〈せり〉を原則とした取引と,仲卸業者と小売商等の間における〈相対〉による取引の2段階の取引が行われている。卸売業者については,生鮮食料品等の効率的な集分荷や確実かつ迅速な決済を行うことができるよう,制度的に参入規制がなされ,ふつう1市場につき1~2社に限定されている。しかし,独占ないし寡占による不公正を排除するために,卸売業者は,出荷者から委託された商品の無条件・全量受託,即日上場が義務づけられ,受託手数料は従価定率とされ,原則としては自己の計算による卸売も禁止されている。つまり,日本の卸売市場では,1~2社の卸売業者が多数の出荷者からの委託により集荷し,それを多数の買手がせり取引を行うことを原則にして,公正で競争的な価格形成と効率的な取引を確保することになっている。ただ,多数の買手によるせり取引のために,価格が乱高下しやすいという欠陥は否定できない。こうしたせり取引原則が一般化するのは,日本においても〈中央卸売市場法〉以後のことで,それまでは,前述したように多数の問屋が個別に相対販売をしていた。欧米においては,今日でもせり取引はむしろ例外であり,パリのランジス公益市場のように,日本の築地市場などより大規模なものであっても,生産者から委託された多数の卸売業者が小売商等に相対で販売するか,生産者の直売という取引方法が主流になっている。もっとも,日本でも水産物のように,冷凍品の増大により,例外としてしか認められない卸売業者からの相対販売がせり販売を上回るようになってきたものもあり,せり取引を今後とも固定的なものとしてとらえることはできなくなってきている。
日本の場合,農林水産省の推計によると,生鮮食料品流通のうち,青果物で85~90%,水産物で90~95%,食肉で15~25%が卸売市場を経由している,とみられる。そして,現行制度のもとで卸売市場には,(1)一定規模以上の都市地域に,農林水産大臣の認可・指導監督のもと,地方公共団体が開設する〈中央卸売市場〉,(2)上記の(1)以外で,卸売場が一定規模以上あり,知事の許可のもとに,地方公共団体,企業,組合等によって開設される〈地方卸売市場〉,(3)上記の(2)の規模に満たない卸売市場(規模未満卸売市場)の3種があり,典型となるのが中央卸売市場である。1996年3月現在で,中央卸売市場は全国56都市に88市場開設されており,3分の2近くは青果物と水産物の両方を取り扱っている。また青果物のみ取り扱う市場も多い。一方,地方卸売市場は全国に約1550市場あり,その半数近くは青果物専門の市場で,ほかに消費地の水産物専門市場と産地で水揚げした魚介類の価格形成を目的とした水産物産地市場がおのおの300あまりある。青果物と水産物の両方を取り扱うものは少ない。規模未満卸売市場は約800市場あるが水産物産地市場が40%以上を占める。さらに,取扱量でみると,中央卸売市場と地方卸売市場がほぼ二分しており(水産物では中央卸売市場のほうがだいぶ多い),その他市場はごくわずかである。
→市(いち) →卸売
執筆者:原田 英生
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(池上甲一 近畿大学農学部教授 / 2007年)
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…なかでも,青果物(野菜,果物),水産物,食肉といった生鮮食料品を中心とした商品について,現物を眼前に置きながら取引をする具体的な場所とそこにおける取引制度を称することが多い。その場合には,卸売市場(いちば)とも呼ばれる(〈青果市場〉〈青物市〉〈魚市場〉〈魚市〉の項目参照)。 青果物,水産物などの多くは,品質・サイズ・重量など,価格を決定する際の諸要素を規格・統一化しにくいという特性がある。…
… 市は,定住店舗による町の発展ののちも,併設されていたが,だんだん少なくなっていった。それとは別に,中世後期から一定の職種を専門とする卸売市場が各地におこった。その早い例として,南北朝期,淀川を上ってくる塩,塩合物(塩魚)に限って独占的に商う淀魚市があった(魚市)。…
…一定の場所に商品の売手と買手が集まって取引する商品市場は,これに対して具体的な商品市場あるいは組織商品市場と分類できる。特定の日に開かれる木材,家畜などの市(いち),干しシイタケ,鰹節,干しのり,荒茶などの入札会,野菜,果実,魚介,生花を中心とする卸売市場,原糸,大豆,ゴム,砂糖などを取引する商品取引所などがそれである。具体的な市場は,法律に基づいて特定の場所(施設)で一定のルールに従って継続して取引する商品取引所や卸売市場(中央,地方)のように高度に組織化された市場と,入札会,せり市,席上(せきじよう)取引,荷受市場など組織化の度合が比較的低い市場に分けられる。…
…かつては青物市と呼ばれた。現在では,中央卸売市場,地方卸売市場,その他の卸売市場の三つの形態がある。このうち前2者は卸売市場法(1971公布)の規制のもとにある。…
…(a)農産物は品質が多様であり,売手・買手は多数の場合が多いため,現物を前に多数の売手・買手が集まって集合的に取引を行う形が多くなる。すでに封建時代に問屋街が形成され,また近代社会で卸売市場が現れるのはこのためである。(b)長期的な傾向変動,規則的な季節変動,また一部の農産物にみられる周期変動など,農産物に独特な価格変動が現れる。…
※「卸売市場」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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