日本大百科全書(ニッポニカ) 「PCB中毒」の意味・わかりやすい解説
PCB中毒
ぴーしーびーちゅうどく
PCB(ポリ塩化ビフェニルpolychlorinated biphenyl)はDDTやBHCなどの農薬と同様に有機塩素化合物の一つで、これが環境汚染物質として体内に蓄積され、健康を害するに至ったものをPCB中毒という。PCBは欧米では1930年ころから、日本では1954年(昭和29)から工業生産が開始され、絶縁性、不燃性などの特性により、電気機器の絶縁油やノーカーボン紙などに広く用いられてきた。しかし1966年以降、世界各地でPCB汚染が疑われるようになった。PCB汚染は、すでに水生生物、鳥類、人の母乳や脂肪組織など広範に及んでいることがわかっているが、製造禁止と廃棄物管理の規制によって環境におけるPCB濃度は減少していくものとみられている。
日本では、1968年に福岡県で、PCBなどに汚染された米糠(こめぬか)油を摂取したことが原因の食中毒が多発した。症状は、顔面や臀部などにみられる黒色のにきび様皮疹(ひしん)、また顔面や眼瞼(がんけん)結膜および爪(つめ)にみられる黒色の色素沈着、上眼瞼の浮腫(ふしゅ)や目やになどが特徴的である。また患者の母親から汚染油が胎盤を通じて胎児に移行し、黒い赤ちゃんも生まれた。患者は長崎県にも多発し、1976年には患者数が1540人に達した。原因は、米糠油製造の脱臭工程において熱媒体として用いたPCB、およびPCBの一部が熱などにより酸化した、より毒性の強いダイオキシン類の一種であるポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)などが米糠油に混入したことによる。この食中毒事件は食用油の摂取により発症したため、中毒症状が油症(ゆしょう)、カネミ油症などとよばれることから、カネミ油症事件とよばれる。なお、PCBは1972年に製造・使用および輸入が禁止された。
[重田定義]