ABCDライン(読み)えーびーしーでぃーらいん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ABCDライン」の意味・わかりやすい解説

ABCDライン
えーびーしーでぃーらいん

ABCDは、アメリカAmerica、イギリスBritain、中国ChinaオランダDutchの頭文字に由来し、太平洋戦争前夜、これら4か国が対日包囲陣を結成して日本を圧迫したという日本側の主張を示すことば。第一次世界大戦前夜にドイツが主張した「ドイツ包囲」の神話と同様、そのねらいはむしろ対外危機感をあおって国民を結束させるとともに、きたるべき戦争が自存自衛のための戦いであることを印象づけることにあった。実態としては、1941年(昭和16)7月の日本の南部仏印進駐に対するアメリカの対抗措置である在米日本資産の凍結、対日石油全面禁輸や、それに先だつ4月下旬のアメリカ、オランダ、イギリスの軍事参謀会議における極東防衛戦略の討議などがあげられる。これらは対日戦争準備というよりも、経済制裁と軍事体制整備により、日本のこれ以上の南進牽制(けんせい)しようとするものと解され、ただちに好戦的な対日包囲陣の結成を意味するものではなかった。

荒井信一

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百科事典マイペディア 「ABCDライン」の意味・わかりやすい解説

ABCDライン【エービーシーディーライン】

太平洋戦争直前ころ,米国America,英国Britain,中国China,オランダDutchの頭文字をとって,各国の対日共同包囲戦線を表すものとして日本が使用した語。1941年,フランス領インドシナ南部への日本の進駐などに対抗して,各国は日本資産凍結,通商航海条約破棄,石油禁輸を実施。日本側はこれらの動きをさして〈ABCDライン〉という言葉を用い,国民に開戦正当性を宣伝した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「ABCDライン」の解説

ABCDライン
エービーシーディーライン

太平洋戦争の開始直前,日本の敵対勢力として政府や新聞・放送で国民に宣伝された包囲陣
日本の南進政策に対抗してとられた対日資産の凍結,対日石油禁輸などをさす。アメリカ(America),イギリス(Britain),中国(China),オランダ(Dutch)の頭文字をとったもの。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「ABCDライン」の解説

ABCDライン

太平洋戦争直前に日本が使った言葉で,アメリカ(America),イギリス(Britain),中国(China),オランダ(Dutch)が日本を包囲し,圧迫していると主張,太平洋戦争を正当化する口実として利用された。

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