国際法上の戦争状態の開始を意味し,これにより交戦国間に戦争法が適用され,外交関係の断絶等の効果を一般には生ぜしめる。開戦にはいずれか一方の国による〈戦意の表明animus belligerendi〉を必要とする。これは明示または黙示に外部に表示されねばならないが,慣習法上定まった形式はない。1904年の日露戦争での明示の戦意表明のない開戦に対する批判を契機に,07年のハーグ平和会議で〈開戦に関する条約〉が成立した。これにより締約国は,理由を付した〈開戦宣言(宣戦)〉または〈条件付開戦宣言を含む最後通牒〉という形式の明瞭な事前の通告なしに相互間に戦闘を開始してはならないことを承認した。もっともこの条約には,非締約国が1国でも加わる戦争にはこの条約は適用されないという総加入条項が付されている。国際連盟体制下で戦争自体が違法化されるとこの条約の意義も減じ,逆に違法という非難を避けようとして戦意の表明さえなしに開始される事実上の戦争が出現するに至った。その代表例は,満州事変,日華事変を契機とする日中戦争であった。国際連合体制は国家間の武力行使のみならず武力による威嚇をも禁止するから,最後通牒さえ国連憲章と両立しがたく,憲章上定められる自衛権の行使においても宣戦を行う余地はなくなったといえる。しかし現実には,現在,戦意の表明がなく戦争状態の承認されない武力紛争が多く見られるが,これらについても49年のジュネーブ諸条約など戦争法の適用は認められる。
→戦争
執筆者:藤田 久一
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戦争の開始をいう。国際法上、戦争は国家の一方的な意思表示で開始される。このような意思の表示には、明示的な表示と黙示的な表示とがある。もっとも、1907年にハーグ平和会議で署名された「開戦に関する条約」(日本は1912年に加入)は、理由を付した開戦宣言の形式または条件付開戦宣言を含む最後通牒(つうちょう)の形式をもつ明示的かつ事前の通告なくして戦争を開始できないことを規定した。この条約は、事前の明示的な開戦の意思表示を要求することによって、奇襲攻撃を防止しようとするものであった。41年の日本の真珠湾攻撃は、この条約の違反を構成するといわれている。もっともこの条約は、開戦の意思表示と実際の開戦の間の時間的間隔を制限していないから、奇襲攻撃防止の機能をこの条約に期待することは、当初からほとんどできなかった。最近では侵略戦争の違法性が一般に確立しているから、戦争開始の方式に関する法規制は意味を失っている。違法行為である侵略=攻撃戦争について、その開始の方式を定めることは論理的に不可能だからである。
[石本泰雄]
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