日本大百科全書(ニッポニカ) 「EU憲法条約」の意味・わかりやすい解説
EU憲法条約
いーゆーけんぽうじょうやく
正式名は「ヨーロッパの憲法を定める条約Treaty establishing a Constitution for Europe」。既存のEU(ヨーロッパ連合)条約とEC(ヨーロッパ共同体)条約を廃止し、内容を一本の条約にまとめ、EU統治原則を「憲法」の名で示そうとした条約。2002~2003年開催の欧州将来像諮問会議の草案をもとに、2004年の政府間会議で締結されたが、2005年のフランスとオランダの国民投票で批准が否決され、廃案となった(発効には全加盟国の批准を要した)。ただしその内容の大部分はリスボン条約(2009年発効)で実現した。
EU憲法条約は、国家ではないEUの「憲法」を定め、統治原則を明記した。そこでEUの統治主体はEU市民と加盟国とし、EUの旗・歌・記念日・モットーを定めた(こうした規定や「憲法」の語はリスボン条約に継承されなかった)。人権保障を定める「EU基本権憲章」を「憲法」に組み込んだ。またEUの諸活動は、EUの価値(「人間の尊厳、自由、民主主義、平等、法の支配、人権の尊重」)に即して、付与された権限内で(権限付与の原則)、目的達成に必要な範囲でのみ行い(比例性の原則)、加盟各国や国内地域だけでは十分または効率的に達成できない事柄のみEUが扱う(補完性の原則)などの運営原則を示した。EU運営の民主化も進め、EUの立法手続での欧州議会(ヨーロッパ議会)の立場を強化し、大部分の立法について、閣僚理事会と対等に立法案の採否の決定権をもつものとした。運営の効率化も図り、閣僚理事会での全会一致事項の削減を進めた。さらに、政策分野別に違う統治制度が併存していた状態(市場統合分野はEC、外交安全保障分野はEU)を解消し、全分野をEUが統一的に行う体制にした。
[中村民雄 2018年6月19日]