〘助動〙 (活用は「せ・せ・せる・せる・せれ・せよ(せろ)」。五段(四段)活用の動詞の未然形に付く) す
(活用は「せ・せ・す・する・すれ・せよ」。四段活用、ナ行・ラ行変格活用の動詞の未然形に付く)
① 他にその動作をさせる意、またはそのように誘発する意を表わす。
※
万葉(8C後)一八・四〇六七「
二上(ふたがみ)の山に隠れるほととぎす今も鳴かぬか君に聞か勢
(セ)む」
※
平家(13C前)四「馬の足の及ばうほどは、
手綱をくれて歩ませよ。はづまばかい繰って泳がせよ」
② そのような動作、作用が行なわれることを許可する、またはそのまま放任する意を表わす。…のままにする。…させておく。
武士ことばとして、受身の「る」の代わりに用いられることがある。
※土左(935頃)承平五年二月一六日「こよひ、かかることと、声高にものも言はせず」
※平家(13C前)三「
僧都〈略〉あやしの臥どへも帰らず、浪に足うちあらはせて、露にしほれて」
③ 許しを依頼する意を表わす。
※
都会の
憂鬱(1923)〈
佐藤春夫〉「あなたの顔を描かせていただきたいものですね」
① (尊敬を表わす語とともに用いて) 尊敬の意を強める。
※竹取(9C末‐10C初)「仰(おほせ)ごとに〈略〉よく見て参るべき由のたまはせつるになん、参りつる」
※枕(10C終)二四五「なほ高く吹かせおはしませ。え聞きさぶらはじ」
② (
謙譲を表わす語とともに用いて) 謙譲の意を強める。
※枕(10C終)一三八「これ奉らせんと言ひければ」
[語誌](1)「せる(す)」は「させる(さす)」と接続の上で補いあう関係にあり、意味は同一である。
(2)
中世(
室町時代)以後、活用が下一段化し、現代の「せる」となる。
(3)使役の「す」は、平安時代に発達したものであるが、
上代にも、(一)①の
挙例「
万葉集」の「聞かす」の
ほか、「知らす」「逢はす」など、その
萌芽とみられる例がある。他動詞語尾の「…す」と密接な関係を持つものであろう。
(4)
敬語としての用法は、使役の表現が動作の間接性を表わすところから転じたものと見られる。
単独には用いられず、尊敬語の動詞、「のたまふ」「賜ふ」に下接し、また、連用形「せ」が「給ふ」「おはします」「まします」などに上接する。敬語を重ねることによって高い敬意を表わすもので、特に「せ給ふ」「のたまはす」などは、
天皇・
皇后やそれに準ずる人にだけ用いられる。
(5)現在では「行幸あらせられた」など、「られる」と重ねて改まった尊敬の気持を表わす場合のほかは、敬意を表わすのには用いられない。
(6)「す」(「さす」も同じ)は漢文訓読語としては用いられず、仮名文学作品にもっぱら用いられた。漢文訓読文での使役の表現には、上代以来の「しむ」が用いられている。
(7)動詞の活用語尾に準ずるものとして、接尾語とする説もある。