金色夜叉(読み)こんじきやしゃ

精選版 日本国語大辞典 「金色夜叉」の意味・読み・例文・類語

こんじきやしゃ【金色夜叉】

(「夜叉」は醜怪猛悪なインドの鬼神)
[1] 小説尾崎紅葉作。明治三〇~三五年(一八九七‐一九〇二)継続して発表。明治三六年に既発表の最後の三章分を「新続金色夜叉」と題して「新小説」に再掲続稿の予定であったが中絶。未完。金銭のため許嫁(いいなずけ)鴫沢宮(しぎさわみや)が資産家の富山唯継と結婚することを知った間貫一(はざまかんいち)が、高利貸になって宮や社会に復讐しようとするもの。演劇、映画、流行歌などでも人気を博した。
[2] 〘名〙 ((一)から転じて) 「こうりかし(高利貸)」の異称。

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デジタル大辞泉 「金色夜叉」の意味・読み・例文・類語

こんじきやしゃ【金色夜叉】

尾崎紅葉の小説。明治30~35年(1897~1902)発表。明治36年(1903)新続編を発表、未完。主人公間貫一はざまかんいちは、許婚いいなずけ鴫沢宮しぎさわみやが富に目がくらんで変心したことを知り、高利貸しになって宮や社会に復讐ふくしゅうしようとする。
原作とする映画。昭和7年(1932)公開。監督は野村芳亭出演林長二郎、田中絹代ほか。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「金色夜叉」の意味・わかりやすい解説

金色夜叉
こんじきやしゃ

尾崎紅葉(こうよう)の長編小説。1897年(明治30)1月1日~1902年5月11日『読売新聞』に断続連載。03年1~3月『新小説』に『読売』連載の終わりの一部を『新続(しんしょく)金色夜叉』として再掲のまま、未完中絶。1898~1903年春陽堂刊、5冊、未完。高等中学生の間貫一(はざまかんいち)は許婚(いいなずけ)の鴫沢宮(しぎさわみや)を愛していたが、宮は資産家の富山唯継(とみやまただつぐ)に嫁すことになり、裏切られたとして熱海(あたみ)の海岸で宮に「来年の今月今夜になったならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せる」と悲痛なことばを残して行方をくらましてしまう。その後、貫一は復讐(ふくしゅう)のため高利貸となり、親友荒尾の忠告にも耳を傾けない。結婚後悔悟した宮は貫一に許しを請うが、それも聞かれなかった。が、その貫一もようやく宮からの手紙を開封するようにはなった、というところで中絶。紅葉一代の大作で、好評を得、早く1898年3月市村座(いちむらざ)初演以来、たびたび新派劇で上演されて圧倒的な人気を博し、伊井蓉峰(ようほう)、高田実(みのる)らの当り芸としてうたわれた。映画化も多い。

[岡 保生]

『『日本近代文学大系5 尾崎紅葉集』(1971・角川書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「金色夜叉」の意味・わかりやすい解説

金色夜叉 (こんじきやしゃ)

尾崎紅葉の畢生(ひつせい)の長編小説。1897年(明治30)から1902年にかけて《読売新聞》に断続連載。空前の人気作で,漸次刊行され,上演もされて流行歌を生むなど,未完中絶ながら,作者の名を不朽にした名作である。金銭ゆえに許婚者の鴫沢宮(しぎさわみや)に捨てられた有為の学生間貫一(はざまかんいち)が,高利貸に身を落として金への妄執に生きるという物語で,資本主義社会の不滅の主題たる金銭の人間破壊を正面からとらえ,復活を愛の再発見に求めている。野心的な社会小説の側面をもち,西洋小説にヒントを得たという。近代リアリズムの観点からは,時代や金銭の本質の描破に至らず,通俗に流れた点が批判されるが,多くの共感を呼んで明治・大正のベストセラーであった。
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百科事典マイペディア 「金色夜叉」の意味・わかりやすい解説

金色夜叉【こんじきやしゃ】

尾崎紅葉の長編小説。1897年―1902年《読売新聞》に断続連載,未完のまま中絶。日清戦争後の社会を背景に間(はざま)貫一とお宮をめぐる金銭と恋愛の問題を描く。明治期の小説中最も広く読まれたものの一つである。
→関連項目伊井蓉峰新聞小説高田実通俗小説藤沢浅二郎不如帰

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「金色夜叉」の意味・わかりやすい解説

金色夜叉
こんじきやしゃ

尾崎紅葉の長編小説。 1897年1月~1902年5月,『読売新聞』連載。未完。富豪の富山唯継に見そめられた鴫沢 (しぎさわ) 宮は,いいなずけである一高生の間 (はざま) 貫一を捨てて富山と結婚する。絶望した貫一は復讐のために高利貸の手代となるという設定で,日本の資本主義社会発展途上における金銭欲,物質欲ゆえの人間模様が描かれ,宮と貫一の間を気づかう荒尾譲介に新時代の書生の友情を体現させている。作者の死で未完に終ったが,「愛と黄金」のテーマが時代に迎えられ,演劇 (1898年市村座初演,新派の当り狂言) ,映画,流行歌などでもてはやされた。

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世界大百科事典(旧版)内の金色夜叉の言及

【家庭小説】より

…必ずしもハッピー・エンドを心がけてはいないが,ときに明るい解決を目ざしたものもあり,〈光明小説〉と呼ばれた(中村春雨の《無花果(いちじく)》(1901)など)。その展開は,尾崎紅葉の《金色夜叉(こんじきやしや)》(1897‐1902),徳冨蘆花の《不如帰(ほととぎす)》(1898‐99)あたりを先駆とし,菊池幽芳の《己が罪》(1899‐1900),《乳姉妹》(1903)などをピークに,草村北星の《浜子》(1902),《相思怨》(1904),田口掬汀(きくてい)の《女夫波(めおとなみ)》(1904),《伯爵夫人》(1905),大倉桃郎(とうろう)の《琵琶歌》(1905)などが続出し,その脚色による新派劇の興隆と相まって,大正の柳川春葉《生(な)さぬ仲》(1912)などに及んでいる。【岡 保生】。…

【新聞小説】より

…また新聞の性格と関連して,季節感や時事性も重視されていた。たとえば尾崎紅葉の《金色夜叉(こんじきやしや)》(1897‐1902)の有名な歌留多取りの場面は松の内に読まれるように工夫されており,夏目漱石の《虞美人草(ぐびじんそう)》(1907)では,連載直前まで開催されていた上野の勧業博覧会がストーリーの展開のかなめになっている。これらは新聞小説のアクチュアリティとしてきわめて効果的であった。…

※「金色夜叉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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