尾崎紅葉(こうよう)の長編小説。1897年(明治30)1月1日~1902年5月11日『読売新聞』に断続連載。03年1~3月『新小説』に『読売』連載の終わりの一部を『新続(しんしょく)金色夜叉』として再掲のまま、未完中絶。1898~1903年春陽堂刊、5冊、未完。高等中学生の間貫一(はざまかんいち)は許婚(いいなずけ)の鴫沢宮(しぎさわみや)を愛していたが、宮は資産家の富山唯継(とみやまただつぐ)に嫁すことになり、裏切られたとして熱海(あたみ)の海岸で宮に「来年の今月今夜になったならば、僕の涙で必ず月は曇らして見せる」と悲痛なことばを残して行方をくらましてしまう。その後、貫一は復讐(ふくしゅう)のため高利貸となり、親友荒尾の忠告にも耳を傾けない。結婚後悔悟した宮は貫一に許しを請うが、それも聞かれなかった。が、その貫一もようやく宮からの手紙を開封するようにはなった、というところで中絶。紅葉一代の大作で、好評を得、早く1898年3月市村座(いちむらざ)初演以来、たびたび新派劇で上演されて圧倒的な人気を博し、伊井蓉峰(ようほう)、高田実(みのる)らの当り芸としてうたわれた。映画化も多い。
[岡 保生]
『『日本近代文学大系5 尾崎紅葉集』(1971・角川書店)』
尾崎紅葉の畢生(ひつせい)の長編小説。1897年(明治30)から1902年にかけて《読売新聞》に断続連載。空前の人気作で,漸次刊行され,上演もされて流行歌を生むなど,未完中絶ながら,作者の名を不朽にした名作である。金銭ゆえに許婚者の鴫沢宮(しぎさわみや)に捨てられた有為の学生間貫一(はざまかんいち)が,高利貸に身を落として金への妄執に生きるという物語で,資本主義社会の不滅の主題たる金銭の人間破壊を正面からとらえ,復活を愛の再発見に求めている。野心的な社会小説の側面をもち,西洋小説にヒントを得たという。近代リアリズムの観点からは,時代や金銭の本質の描破に至らず,通俗に流れた点が批判されるが,多くの共感を呼んで明治・大正のベストセラーであった。
執筆者:土佐 亨
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…師匠の鴈治郎から林長二郎の名をはなむけにもらい,主として衣笠貞之助監督と組んで(《お嬢吉三》《鬼あざみ》(ともに1927)等々から代表作の1本となった松竹創立以来の大ヒット作《雪之丞変化》三部作(1935‐36)などに至るまで),松竹時代劇の人気スターとなった。32年には松竹蒲田撮影所で初の現代劇《金色夜叉》にも貫一の役で出演している(田中絹代がお宮を演じた)。 37年,松竹を退社して新興会社の東宝の引抜きに応じたため有名な刃傷事件が起こり,暴漢のかみそりにより左頰に傷を負うが,それを機に本名の長谷川一夫を名のり,入江たか子と共演の東宝映画《藤十郎の恋》(1938)で再起。…
…必ずしもハッピー・エンドを心がけてはいないが,ときに明るい解決を目ざしたものもあり,〈光明小説〉と呼ばれた(中村春雨の《無花果(いちじく)》(1901)など)。その展開は,尾崎紅葉の《金色夜叉(こんじきやしや)》(1897‐1902),徳冨蘆花の《不如帰(ほととぎす)》(1898‐99)あたりを先駆とし,菊池幽芳の《己が罪》(1899‐1900),《乳姉妹》(1903)などをピークに,草村北星の《浜子》(1902),《相思怨》(1904),田口掬汀(きくてい)の《女夫波(めおとなみ)》(1904),《伯爵夫人》(1905),大倉桃郎(とうろう)の《琵琶歌》(1905)などが続出し,その脚色による新派劇の興隆と相まって,大正の柳川春葉《生(な)さぬ仲》(1912)などに及んでいる。【岡 保生】。…
…また新聞の性格と関連して,季節感や時事性も重視されていた。たとえば尾崎紅葉の《金色夜叉(こんじきやしや)》(1897‐1902)の有名な歌留多取りの場面は松の内に読まれるように工夫されており,夏目漱石の《虞美人草(ぐびじんそう)》(1907)では,連載直前まで開催されていた上野の勧業博覧会がストーリーの展開のかなめになっている。これらは新聞小説のアクチュアリティとしてきわめて効果的であった。…
※「金色夜叉」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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