日本大百科全書(ニッポニカ) 「ウバザメ」の意味・わかりやすい解説
ウバザメ
うばざめ / 姥鮫
軟骨魚綱ネズミザメ目の科や属の総称、またはその1種の名称。ウバザメ科Cetorhinidaeはウバザメ属CetorhinusのウバザメC. maximus1属1種からなる。口が非常に大きいこと、体側にある5対(つい)の鰓孔(さいこう)が体の背縁付近から腹縁付近にまで大きく開いていること、歯が微小であること、尾びれ下葉が発達して、全体的に三日月形となっていることなどが特徴である。本種はジンベエザメに次ぐ第二の巨大魚で、全長13メートルほどになる。生殖方法は食卵型胎生であるとされているが、詳細は不明である。1尾の雌から6尾の胎仔(たいし)がみつかったことがある。野生で知られている最小個体は全長1.65メートルで、このくらいの大きさで産まれると考えられている。また、冬季には深海で冬眠するといわれているが、直接観察した記録はない。大きな体にもかかわらず餌(えさ)はプランクトンで、口を大きくあけてゆっくり泳ぎ、餌を含んだ水を口腔(こうくう)に流し込み、大きな鰓孔の手前にある細長い櫛(くし)状の鰓耙(さいは)(一種の濾過(ろか)器官)で餌だけを濾過し、まとめて飲み込む。海表面をゆったりと漂っていることも多く、このためにバスキングシャークbasking shark(「ひなたぼっこをするサメ」の意)の名がある。また簡単にとらえることができるためバカザメ、小さな個体では吻(ふん)が長いためにゾウザメなどとよばれることもある。ときに数百頭の群れをつくる。世界の海洋から知られ、寒帯から温帯域にかけてはおもに表層域に、熱帯海域では水温躍層(深度の変化に伴って急激に温度が変化する層)より下側の、より低水温域に分布する。生息水深は1264メートル以浅である。肉は水っぽくてあまり利用価値がないが、大きな肝臓からは油がとれる。世界的に資源の変動が大きく、国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストでは、絶滅危惧(きぐ)種中の「危機」(EN)に指定されている(2021年9月時点)。
[仲谷一宏 2021年10月20日]