日本大百科全書(ニッポニカ) 「ジンベエザメ」の意味・わかりやすい解説
ジンベエザメ
じんべえざめ / 甚兵衛鮫
甚平鮫
軟骨魚綱テンジクザメ目の科や属の総称、またはその1種の名称。ジンベエザメ科Rhincodontidaeはジンベエザメ属RhincodonのジンベエザメR. typus1属1種からなる。口が体の前端付近にあること、体には背側から体側にかけて5~7本の皮質の強いキール(隆起線)が頭から尾の方向に走ること、歯が非常に小さいこと、体には小さな淡色円状斑点(はんてん)が多数あること、などが特徴である。眼球には目を保護するための鱗(うろこ)があり、目を守るために眼球を奥に引っ込めることができる。
ジンベエザメは魚類のなかでもっとも大形になる種で、普通は10メートル、重さ10トンくらいであるが、最大で20メートル、重さ42トンにもなるという。英名は大形になるため「クジラザメ」whale sharkという。餌(えさ)は小魚、プランクトン、魚卵などで、小魚やプランクトンの場合は群れのなかを泳いで、浮遊性の魚卵などの場合は立ち泳ぎをして海表面に漂っている魚卵を口に流し込み、鰓耙(さいは)といわれる「ふるい」で濾過(ろか)して飲み込む。ジンベエザメに次いで大きくなるウバザメや、最大の動物であるシロナガスクジラなどのヒゲクジラ類もプランクトンや小形魚類などを餌としているが、大きな動物を追いかけて捕食するよりは、ゆっくりと泳ぎ、無数にいるプランクトンや小魚を飲み込むほうがエネルギー効率がはるかによいのである。
また、ジンベエザメにはカツオなどの群れがついていることが多く、それを「サメつき魚群」といい、大漁になることが多い。ジンベエザメの生殖方法は卵生と考えられてきたが、卵黄依存型の胎生で、台湾で記録された全長10メートル余の雌からは300尾ほどの胎仔(たいし)が確認された。性質はおとなしく、人を襲うことはないが、体が巨大なために船との衝突事故が起きることがある。全世界の温熱帯海域に分布する。暖かい季節には暖流にのって北上し、北海道のオホーツク海で記録されたこともある。近年ではジンベエザメが集合する時期や場所が明らかになり、そのような場所でジンベエザメを観察したり、いっしょに泳いだりすることもできるようになった。国際自然保護連合(IUCN)のレッド・リストでは、絶滅危惧(きぐ)種中の「危機」(EN)に指定されている(2021年9月時点)。
[仲谷一宏 2021年10月20日]