現代社会学の一潮流。「人々の方法」を意味するこのことばは、ethnomedicineやethnobotanyなどということばに倣って、1954年アメリカの社会学者ガーフィンケルによって使用された。当初はガーフィンケルに即してエスノメソドロジーが論じられたが、今日ではこの名のもとにさまざまな研究の動向がみられる。
エスノメソドロジーの課題は、生活する人々の日常的営為と常識的諸活動に注目して、自明性を解明するところにある。ゴールドナーはエスノメソドロジーを「ハプニングとしての社会学」とよび、ガーフィンケルを「習俗folkwaysを扱うエスノグラファー(民族誌学者)」と称したが、ガーフィンケルは実験行為という手法を用いて事例研究を行い、日常生活の基盤と背景にメスを入れ、社会秩序の研究においても新たな地平を開いた。今日、エスノメソドロジーの研究業績は、社会学の一パースペクティブ(ものの見方)としても、調査研究の独自の手法としても注目されている。
ガーフィンケルはパーソンズ、シュッツ、フッサールなどの業績に多くを学んでいる。社会秩序の研究という点で彼はパーソンズに注目しているが、そのアプローチはパーソンズとは著しく異なる。人々は日常生活の場面で現実の意味づけや秩序づけをいっしょになって行い、また、相互行為やコミュニケーションを通じて、状況を規定し、絶え間なしに現実を構成しているのである。日常生活の世界、常識的活動、現実、自明性などへのアプローチという点で、ガーフィンケルはシュッツやフッサールなどに学ぶところがあった。エスノメソドロジーを現象学的社会学phenomenological sociologyのさまざまな動向の一環をなすものとしてみる場合もある。
生活する人々には暮らしの技術と方法、生活の知恵がある。問題の扱い方や解決の仕方、できごとの説明の仕方や解釈の仕方はいずれも常識にかかわることだが、エスノメソドロジーでは、会話分析をはじめ多様な事例研究を通じて、こうした常識、人々の間での暗黙の了解事項、自明性などの究明が行われてきたのである。またエスノメソドロジーでは、人間は意味付与の活動と現実構成の主体であり、生活者の視点から世界と現実の日常性の探究が試みられているのである。
[山岸 健]
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…特に,リテラシーなどの文化的道具と認知との関係に関する研究,工場や家庭における日常的認知の研究は,状況論的な学習の理論化において重要な役割を果たした。エスノメソドロジーの知識観,行為観も強い影響を与えている。その中心的な主張は,知識や行為はそれが使用される活動から切り離すことができないという知識や行為の状況性の強調である。…
…(2)解釈的社会学 主観主義的な立場に立つ規制の社会学で,社会唯名論的,反実証主義的,主意主義的,個性記述的な性格をもつ。この中心をなすのは,日常的な生活世界の意味構造を理解しようとするシュッツAlfred Schutz(1899‐1959)を先頭とする現象学的社会学と,この現象学的社会学の理念と社会言語学の方法とを結合して,常民世界の規範的ルールや合理性の構造に接近しようとしているエスノメソドロジーethnomethodologyである。両者に共通する理論的立場の特徴は,それらが観察者としてではなく参加者として社会事象とかかわりをもち,人々の行為や相互作用を不断の意味解釈過程ととらえ,それに理解的方法で迫るという方法と,理論以前の常識がもつ有意性構造や妥当性構造に焦点を合わせ,社会的現実構成の多元性を指摘し,いわゆる〈多元的現実〉の理論を展開していることである。…
※「エスノメソドロジー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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