日本大百科全書(ニッポニカ) 「構造機能分析」の意味・わかりやすい解説
構造機能分析
こうぞうきのうぶんせき
structural-functional analysis
[中野秀一郎]
機能的連関の追求
諸要素が機能的に関連しあって全体構造を形成し、それが一つの総体として一定の環境のなかでその存在を持続しているような客体に関して、有効な分析方法の開発に力を注ぐ努力は、生物学や生態学の領域で積極的に行われてきた。社会集団や全体社会に関しても、このような考え方に立脚した分析方法が考案された。イギリスの社会人類学者マリノフスキーやラドクリフ・ブラウンは、それぞれトロブリアンド諸島やアンダマン島の原始社会を、さまざまな文化要素が相互に連関しあって形成する有機的な統一体として観念することにより、いわゆる機能主義とよばれる分析方法を確立したのである。
人間の集団や社会が、どのような構成要素(変数)からなり、どのような要素間関係をもち、ある種の統一体として存立することになるのかを、システムという概念でとらえることによって、体系だった分析を展開したのはパーソンズである。彼は、システム内部の比較的恒常的で安定的な要素(変数)を構造(常数)としてとらえ、そのうえでシステムの機能連関(各要素がシステム全体に貢献する正・負の機能関係)を分析するという、いわゆる構造機能分析を定式化した。
[中野秀一郎]
理論の発展
このような方法論的・理論的分析枠組みは、その後さまざまな社会現象へのアプローチとして広く用いられるようになる。その前提は、社会(現象)は相互に影響を与え合い、相互作用する複数の諸単位から成り立ち、それらが協同、対立、調整などのさまざまな社会過程を通して相対的に安定した統一的な社会システム(社会体系)を形成している、とするのである。パーソンズ自身のちに述べているように、このようにして発展してきた構造機能分析は、今日では単に「機能分析」とよばれることが多い。それというのも、構造偏重の分析が社会の制度的安定とその維持メカニズムである社会化や社会統制を重視することで、社会的葛藤(かっとう)や社会変動に対する理論的アプローチを閉ざしてしまうという批判がおこったからである。
もともと「構造機能主義」という用語に難色を示したのはアメリカの社会学者マートンであり、これに同意したパーソンズ自身も、この分析方法を「機能分析」とだけよぶようになった。パーソンズによれば、ここでは、分析対象を「環境との関係にあるシステム」と観念することが重要であり、さらにそのシステムが相対的な安定を維持するために示す「自己制御能力」が注目されるのである。機能とは、基本的には、全体としてのシステムが環境に対して適応するメカニズムであり、ここでは明らかに生物学的なホメオスタシスが想定されている。構造や過程は、機能の下位概念として位置づけられている点も強調しておく必要があろう。パーソンズ自身、1970年代中期には、最初から構造を措定しないこと、過程もまた相対的に安定的で連続的な構造のなかで生起するものであること、を明確に述べている。
[中野秀一郎]
理論の動学化
生命体システムの一般的分析枠組みとして拡大された今日の機能分析が、往時の社会変動に無力な「構造機能分析」と同一視されてはならない。同時にまた、機能分析がシステム主体を想定して、その「状況の定義」や「認知地図」との関連で、システムの適応機能を分析する観点を導入したことについても留意が必要である。こうした理論的洗練は、いうまでもなくマートンの潜在的機能と顕在的機能を発展的に同化したことになり、それが単なる客体分析(観察者の視点)のみならず、サイバネティックス(システム主体の視点)をも含んだ「進化の理論」へと発展したことも示唆している。こうして、機能分析は今日、高度に複雑な適応システム(複雑系)を「自己組織系(自己組織性をもったシステム)」としてとらえ、情報論、記号論、意思決定論、サイバネティックスなどの知見を吸収しつつ、より洗練された形へと進化したのである。
[中野秀一郎]
『T・パーソンズ著、佐藤勉訳『社会体系論』(1974・青木書店)』▽『新睦人・中野秀一郎著『社会システムの考え方』(1981・有斐閣)』▽『中久郎編『機能主義の社会理論――パーソンズ理論とその展開』(1986・世界思想社)』▽『T・パーソンズ著、田野崎昭夫監訳『社会体系と行為理論の展開』(1992・誠信書房)』▽『富永健一著『行為と社会システムの理論――構造‐機能‐変動理論をめざして』(1995・東京大学出版会)』▽『ロバート・K・マートン著、森東吾・森好夫・金沢実・中島竜太郎訳『社会理論と社会構造』(2002・みずす書房)』