フランスの飛行家で小説家。人間の条件を行動のうちに探究し、危機感のなかに人間性と人間の責任をとらえようとする行動主義文学の代表的作家。名門貴族の子弟としてリヨンに生まれる。初め海軍兵学校を志すが、入試に失敗し、美術学校で建築を学ぶ。1921年、兵役で航空隊に入り操縦士となったが、除隊後は工員、セールスマンなどをしながら、26年ごろから雑誌に文学作品を発表する。のちラテコエール航空会社に入ったが、当時は航空路開発時代で、数々の冒険、危難を経験する。1927年、トゥールーズ―カサブランカ空路のパイロットとなり、その体験から処女作『南方郵便機』(1929)を発表、未知の美を夢想する飛行家の内面を描く。その後、南米空路開発に従事したあと帰仏して結婚し、『夜間飛行』(1931)を執筆、これによりフェミナ賞を受賞する。続いて『人間の土地』(1939)では、行動の倫理を追求し、行動主義文学の旗印を鮮明にする。
第二次世界大戦で動員され、とくに偵察任務に従事したが、独仏休戦後、一時、妻とニューヨークに亡命、戦争体験を踏まえた思索の書『戦う操縦士』(1942)、童話『星の王子さま』(1943)、書簡体エッセイ『ある人質への手紙』(1943)、文明を論じる未完の論文『城砦(じょうさい)』(没後刊、1948)などを発表。1943年北アフリカの原隊に復帰、連合軍のシチリア進攻を援護したが、翌年7月31日、偵察飛行のためコルシカ島の基地を発進したまま帰還せず。一説では帰投直前ドイツ戦闘機に撃墜されたといわれる。
[榊原晃三]
1998年9月、フランス南部のマルセイユ沖でサン・テグジュペリの名前が彫られた銀のブレスレットが発見された。海中探索の結果、搭乗機の残骸(ざんがい)が発見され、2004年4月、墜落地点が特定された。
[編集部]
『山崎庸一郎・粟津則雄・渡辺一民他訳『サン=テグジュペリ著作集』6巻・別巻1(1962・みすず書房)』▽『山崎庸一郎著『サン=テグジュペリの生涯』(1971・新潮社)』
フランスの飛行家,作家。由緒ある貴族の家系に生まれ,カトリック系の学校で中等教育を終えたあと海軍をめざすが,兵学校の入試に失敗,1921年兵役に服し陸軍飛行操縦学生となる。22年予備少尉に任官,除隊後は一時会社員生活に甘んじる。26年ラテコエール航空会社に入り,トゥールーズ~カサブランカ線の定期郵便飛行に従事,中継基地のキャップ・ジュビーの飛行場長時代に《南方郵便機》(1929)を執筆する。29年アエロポスタ・アルヘンチーナ社の支配人としてブエノス・アイレスに赴任,パタゴニア線の開拓に努力し,《夜間飛行》(1931。フェミナ賞)を執筆する。31年親会社のアエロポスタル社の内紛によって退社,テストパイロット,ジャーナリストとして活躍,《人間の大地》(1939。アカデミー小説大賞)を発表する。第2次大戦が始まると召集を受け偵察機を操縦,その功績によって感状を受ける。ドイツ軍の侵入後はアメリカに亡命,《戦う操縦士》(1942),《星の王子さま》(1943),《ある人質への手紙》(1943)を出版。43年北アフリカにあった原隊に復帰,アメリカ軍と協力してフランス本土上空の偵察飛行に従事,44年7月コルシカ島の基地から出撃後に消息を絶ち,ドイツ戦闘機に撃墜されたものと推定されている。死後,その思想大全とみなされるべき未完の大作《城砦》(1948)が刊行された。
幾度かの危険な飛行や体験から生み出された彼の著作には,人間,自然,文明についての省察と,その秩序,モラルの復活への渇望とがみなぎっている。〈飛行機の英雄〉であった彼は,1930年代の行動の文学を代表する一人とみなされている。
執筆者:山崎 庸一郎
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…同じころのショボーL.Chauveauは子どもの酷薄さと向きあった作家である。第2次大戦で死んだサンテグジュペリの《星の王子さま》(1943)は詩のように美しい傑作であった。戦後ギヨーR.Guillotが出現して,はじめてフランスにおける子ども固有の文学が世界的にみとめられたといってよい。…
…フランスの作家サンテグジュペリの小説。作者がアエロポスタル社のアルゼンチン支社長時代に執筆され,1931年に出版,同年のフェミナ賞の受賞作となる。…
※「サンテグジュペリ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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