フランスの作家サンテグジュペリの小説。作者がアエロポスタル社のアルゼンチン支社長時代に執筆され,1931年に出版,同年のフェミナ賞の受賞作となる。中心人物リビエールは,郵便飛行事業の開拓期に,鉄の意志と峻厳な規則とをもって,作者をはじめ多くのパイロットを鍛え上げたディディエ・ドーラをモデルにしている。リビエールは,チリ,パラグアイ,パタゴニアの3方面から飛来する郵便機をブエノス・アイレスに迎え,それをヨーロッパ便に接続させるという中枢的重責を担う。作品は彼の苦悩の一夜の物語であり,同時に,アンデス山脈の嵐や,パタゴニアのサイクロンと戦うパイロットたちの苦闘の模様が描かれ,そのひとりは悲劇的な死を遂げる。緊迫した雰囲気のなかに,夜間飛行初期の叙事詩がみごとに浮彫にされ,簡潔かつ詩的な文体とあいまって,作者の最も完成度の高い作品と評されている。
執筆者:山崎 庸一郎
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フランスの小説家アントアーヌ・ド・サン・テグジュペリの小説。1931年刊。ある暴風雨の夜、ブエノス・アイレス空港に帰ろうとしている郵便輸送機がある。パイロットのファビアンは必死に基地と連絡をとろうとする。高度はすでに500メートルに落ち、やっと山地を逃れて海に出たが、燃料はあと30分しかない。ファビアンは死と直面しながらの行動のなかでも、なお地上の幸せ、日常生活における個人的幸福を思索する。一方、ファビアンの親友で、基地の主任リビエールは、ファビアン機の不時着の有無を各基地に問い合わせ、親友の生死の確認に苦慮しながらも、各基地の人間との連帯や航空事業の命運に心を砕かねばならない。それが社会のなかで行動する人間としての彼のモラルであり信念なのだ。だから彼は、結局遭難死したファビアンに対する個人的哀悼や悲しみを乗り越えて、ふたたび他の飛行機に発進命令を出さねばならない。ほかのパイロットたちをまたも死の危険にさらさねばならない。アンドレ・ジッドの序文でいう「人間の幸福は自由のなかにあるのではなく、義務の甘受のなかにあるという事実」を、人間の尊厳の明証たる勇気ある行動のうちに追求した思索小説。
[榊原晃三]
『堀口大学訳『夜間飛行』(新潮文庫)』
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…1910年代まではヤードレー,ウビガン,ロジェ・アンド・ガレ,ゲラン,コティ,キャロンといった香水や化粧品の専門メーカーによって,それも天然香料を主にした香水が発売されていたが,1920年代になってオート・クチュールのシャネルが合成香料のアルデハイドを配合した香水〈No.5〉を発表し,以後ランバン,ジャン・パトゥ,スキャパレリ,ディオールなどデザイナー・ブランドの香水が発売される傾向になった。香りのタイプもシングルフローラル(単純な花の香り)からオリエンタル(ジャコウなど動物的な香り,ダナの〈タブー〉,ゲランの〈ボル・ド・ニュイ(夜間飛行)〉など),シプレー(シプル島のイメージをもった粉っぽい香り,ゲランの〈ミツコ〉,ディオールの〈ミス・ディオール〉など),フローラルブーケ(花束の香り,ジャン・パトゥの〈ジョイ〉,ニナ・リッチの〈カプリッチ〉など),アルデハイド(合成香料アルデハイドを主調としたモダンな香り,〈シャネルNo.5〉,ランバンの〈アルページュ〉など)と発展し,1970年代からグリーン・ノート(青葉・青草の香り,〈シャネルNo.19〉,Y.サン・ローランの〈イグレック〉など)が流行した。これらの香水の多様な発展には,そのさまざまな微妙な匂いの違いをかぎわけて調合する調香師の果たす役割も見逃せない。…
…この作品では,予測し難い生の衝動に駆られた人間悲劇がきわめてリアルに描かれ,旋律的歌唱と語りの中間をゆくシュプレヒシュティンメの発声法も効果的に用いられている。より歌唱的ではあるが,イタリアのマリピエロによる《夜間飛行》も,同時期の十二音の技法による作品である。なお,両大戦間の時期に,アメリカでは黒人霊歌とジャズの語法を取り入れたガーシュウィンの《ポーギーとベス》が成功を博し,イギリスでは折衷主義的な作風ながら劇的効果にすぐれたブリテンの《ピーター・グライムズ》が現れた。…
※「夜間飛行」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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