ロシア語のノルマには、本来、二つの意味がある。一つは英語のnormないしstandardに相当するもので、定められた規準ないし規準量を意味し、もう一つはほぼ英語のrateにあたり、率を意味する。たとえば、第二の意味でいうと、norma pribyliは利潤率rate of profitにあたり、norma nakopleniyaは蓄積率accumulation ratioにあたる。しかし、一般的には、ソ連をはじめとする計画経済諸国で計画作業の基礎として用いられる種々の基準ないし基準量のことをさしていた。この意味での計画ノルマの数は、おびただしく多い。たとえば、基礎的な消費の計画化の場合、人口1人当り望ましい財またはサービスの供給量を策定することがあった。食糧消費では、栄養学的に根拠づけられた人口1人当りの摂取カロリー量、タンパク質量(それも肉、魚、植物性タンパクに分けて)、ビタミン量などが示され、それを目標として食糧生産計画がたてられていた。この意味ではそれは計画のガイド・ライン的な役割を果たすものであった。他方、価格代替性(たとえば靴と背広の間のように)がある場合には、ノルマによる計画化には当然の限界があった。
生産過程でのノルマは、原材料支出ノルマと労働ノルマの二つに大別されていた。前者は、一定の生産物を生産するのに必要な原材料、燃料、電力などの消費ノルマであり、厳しく強調されていた節約ノルマもその一種であった。後者は、一単位の生産物を生産するのに必要な標準時間で示す時間ノルマと、単位時間(時間、日、週、月)内に遂行しなければならない標準作業量ないし生産量で示す産出高ノルマその他に分かれていた。いずれもノルマの超過遂行がなんらかのプレミアムにリンクされていることに変わりはない。こうしたノルマの使用は計画経済では避けられないものだが、半面、煩瑣(はんさ)化の弊害を伴うことから、1960年代の経済改革後の過程では、より間接的な標準指標(ノルマチーフ)に切り換えられていく傾向があった。
[佐藤経明]
『M・Z・ボール著、平館利雄・宮下誠一郎訳『社会主義計画経済入門』(1974・新評論)』▽『M・エルマン著、佐藤経明・中兼和津次訳『社会主義計画経済』(1982・岩波書店)』
イタリアの作曲家ベッリーニのオペラ。二幕五場。フェリーチェ・ロマーニの台本に基づき1831年に作曲、同年ミラノ・スカラ座で初演。紀元前50年ころ、ローマ共和政末期のガリア地方を舞台とする悲劇である。ドゥルイド教の尼僧長ノルマは敵方のガリア総督ポリオーネに恋し子供までもうけるが、やがて彼は若い尼僧アダルジーザに心変わりしてしまう。深い苦悩のうちにノルマは、純潔を破り祖国を裏切った罪を償うため自ら火刑台に登り、またポリオーネも改心し、ともに炎に包まれる。いわゆるプリマドンナ・オペラで、主役にはベルカント唱法にたけたソプラノ歌手、しかも、清純な宗教的帰依(きえ)からごく人間的な嫉妬(しっと)の情に至るまでさまざまな感情を描き分ける歌唱表現力と演技力が要求される。ノルマの独唱「清らかな女神よ」やアダルジーザとの二重唱「最後のときまで」などの名曲がある。日本初演は1923年(大正12)カーピ・イタリア歌劇団。
[三宅幸夫]
…第4の点についても,業務拡大(ジョブ・エンリッチメント)や,多能工化,さらには分業流れ工程の否定など,のちに多くの試行が行われて現在に至っている。また,レーニンは科学的管理を一時批判したが,のちにソ連でも作業目標の設定に時間研究が取り入れられ,課業(ノルマ)は広く用いられるに至った。 一方テーラーの時間研究は,その後継者のA.シーガー,J.クイック,M.メーナードらによる標準時間前決め法に発展,ギルブレスの動作研究はA.モーゲンセンにより作業簡素化計画として拡大され,第2次大戦後オペレーションズ・リサーチとシステム工学を取り入れ(R.レーラー,G.ナドラーら),ワーク・システムと呼ばれて,ともに現在のインダストリアル・エンジニアリングの基本的技法となっている。…
…労働者が一定時間内に遂行すべき標準作業量のことで,タスクまたはノルマとも呼ばれる。ただしロシア語のノルマnormaは,社会主義企業において労働者に課せられる標準作業量が本来の意味である。…
…ところで,古くからオペラの作曲家は,ある特定の歌手の演奏能力を念頭においてオペラを作曲することが珍しくなかったが,そのことは,あるタイプのすぐれた歌手が存在しない場合,過去の名作が再演不能に陥る可能性をはらんでいる,と言えよう。現に,最近ではM.カラスという卓越したソプラノ・ドラマティコを得て,ベリーニの《ノルマ》をはじめとする諸作品が本来の姿で舞台によみがえった事実が想起される。R.シュトラウスの《エレクトラ》は,初演時に,エレクトラに予定された女性歌手が,その役がらの困難さのために出演を放棄するというスキャンダルを生んだ。…
…いくぶん哀愁を含んだ美しい旋律は他に類をみず,イタリア語の洗練された美しい語韻と流麗で優雅な抒情的旋律との結合によってイタリア・オペラのベル・カントの伝統に最後の輝きを与えた功績は大きい。短命の中に《夢遊病の女》《ノルマ》(ともに1831),《清教徒》(1835)など13曲の歌劇のほか,宗教曲,歌曲,器楽曲にも優れた作品を残した。【武石 英夫】。…
※「ノルマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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