改訂新版 世界大百科事典 「リート形式」の意味・わかりやすい解説
リート形式 (リートけいしき)
Liedform[ドイツ]
単純な2部形式および3部形式を指す楽式論上の用語。歌曲形式,歌謡形式ともいう。簡単な有節歌曲の形式であるところから付けられた名だが(命名者は19世紀前半のドイツの理論家A.B. マルクス),とくに歌曲の形式に限られるわけではなく,器楽でも最も基本的な形式の一つに数えられている。その起源はおそらく16~17世紀の舞曲に求められる。2部形式はそれぞれ繰り返される二つの部分からなる。abのように前半と後半で楽想が異なるのがふつうだが,aa′のように後半が前半の変形にすぎない場合もある。調設計のうえでは,前半で主調から属調(長調の曲の場合)または平行調(短調の曲の場合)へ転調し,後半で主調に回帰する形をとる。3部形式はリート形式を代表するが,典型的な場合ab aと表される。つまり同じ楽想が,旋律のうえでも調のうえでも,対照的な中間部を介して再現される形である。このほか大楽節一つだけからなる旋律を1部形式と称し,これをリート形式に含めることもあるが,あまり一般的ではない。以上の諸形式は小曲全体の形式である場合と,例えば舞曲,変奏曲,ソナタなどにおける主題の形式として大形式の一部分をなす場合とがある。リート形式が拡大され,各部分がそれ自体2部分ないし3部分からなるものを複合リート形式という。複合3部形式は重要で,A(ab a)B(cd c)A(ab a)と表される。これは,ソナタや交響曲のメヌエット楽章,スケルツォ楽章に多い。ダ・カーポ形式(ABA)も一種の大規模な3部形式だが,ふつうはリート形式には含まれない。中間部を介して同じものが回帰するあらゆる形式を総称してボーゲン(弓形)形式ということもある。なおソナタ形式もある意味では大がかりな3部形式であり,歴史的にもリート形式から発展したものと考えられる。
→楽式
執筆者:土田 英三郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報