声楽に対する言葉で,楽器により演奏される音楽をさすが,器楽に含まれる形態にも部分的に声楽を含むものがある(ベートーベンの《第九交響曲》など)。器楽は演奏に要する楽器の編成にしたがって独奏,重奏,合奏に区別され,さらに使用楽器によってピアノ独奏,弦楽四重奏,クラリネット五重奏(弦楽四重奏とクラリネット一つ)などに分けられる。複数奏者による編成のうち,各声部を独立した1人の奏者が受け持つ場合を重奏,2人以上からなる声部を含む場合を合奏と呼ぶのが普通である。重奏には二重奏(デュエット),三重奏(トリオ)……などがあるが,九重奏以上はあまり例がない。
器楽,声楽については,その区別を明確に意識する場合としない場合とがある。たとえば初期のキリスト教では楽器の演奏は典礼の言葉に役立たないことを理由に信仰と無縁であるとし,低い地位しか与えられなかった。それに対しバロック以前の音楽では歌っても楽器で演奏してもよいとの表示があることがある。また16世紀のシャンソンは合唱で歌われることも独唱者によって歌われることもあったように,ソロとアンサンブルの別が明確でない場合がある。西洋音楽でルネサンス以前には,器楽は声楽と対等なジャンルとして確立していないが,それ以前にもたとえば9世紀に北ヨーロッパで器楽の合奏がポリフォニーの成立に寄与し,13世紀には各種の舞曲が作られ,やがてサルタレロなどが現れた。声楽曲の分野でも器楽的発想が重要性を帯びるようになり,フランドル楽派の音楽では器楽的で構成的な要素が重みをもつ。しかし代表的な音楽は16世紀終りにいたるまで言葉と結合していた。これに対し17世紀初めから18世紀半ばにかけて器楽,声楽が同様に重視されるようになり,器楽のカンツォーナ,ファンシー,教会ソナタ,室内ソナタ,オペラの序曲,管弦楽や鍵盤楽器の組曲,コンチェルト・グロッソ,トッカータ,フーガ,変奏曲,オルガン・コラールなどが現れた。18世紀半ば以降は器楽が声楽をしのぐ勢いを示し,弦楽四重奏,ピアノ・ソナタ,バイオリン・ソナタ,セレナーデ,ディベルティメント,交響曲,協奏曲でウィーン古典派がひとつの頂点を築く。19世紀は詩的・絵画的なものと結合してキャラクター・ピース,交響詩などの標題音楽を生み出す一方,音楽構成の自律性を強調する傾向も強まり,器楽は絶対音楽の精髄と見なされるようになる。ロマン派への反発を示す現代音楽では,電子音楽のように,伝統的な器楽,声楽の別をこえたさまざまな新しい試みがなされている。日本の伝統音楽では声楽が優勢であるが,雅楽の管絃や箏曲の段物(だんもの)があり,またインドネシアのガムランは器楽合奏の重要な例である。
執筆者:植村 耕三
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
声楽の対語で、楽器のみで演奏される音楽の総称。演奏形態から独奏と合奏とに大別されるが、各演奏者が対等な合奏は重奏とよばれることが多い。また管弦楽は多種類の楽器を用いた多人数による合奏である。器楽は独立した楽曲を形成するだけではなく、オペラやオラトリオなどの大規模な声楽曲において、序曲や間奏曲として用いられることも少なくない。
この器楽と声楽という分類概念は、とくに17世紀以降の西欧音楽と密接に結び付いている。すなわち中世、ルネサンス音楽では、器楽と声楽との間に明確な区別は存在せず、同じ作品が器楽としても声楽としても演奏されたのである。ようやく16世紀から、鍵盤(けんばん)楽器やリュートなどのための独奏曲や各種の楽器の組合せによる重奏曲が多数現れた。このような器楽曲の多くは、多声声楽曲の編曲や舞踊音楽の様式化によって成立したものであるが、さらに前奏曲やトッカータが調弦の必要性などから純然たる器楽曲として発生した。バロック時代(1600~1750)には器楽と声楽が同等の重要性をもつようになり、楽器の特性を生かした独自の器楽様式が声楽様式と互いに影響を与えつつ発展した。さらに古典派以降には器楽は声楽よりも概して優位になるが、それは科学技術の発展による楽器の整備改良と密接に関連している。また、ことばに制約されない器楽は抽象的で普遍的な表現に適しており、古典派の時代には3~4楽章構成を標準とするソナタが理想的形式として確立された。
西欧以外の音楽に関しても、しばしば便宜的に器楽と声楽とに分類する方法がとられることが少なくない。たとえば、おおむね声楽が優位にたつ日本音楽でも、雅楽はオーケストラの一例であり、尺八本曲(ほんきょく)や箏曲(そうきょく)の段物は高度の芸術性を示す独奏器楽曲である。
[寺本まり子]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
※「器楽」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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