変奏曲(読み)ヘンソウキョク(その他表記)variation

翻訳|variation

デジタル大辞泉 「変奏曲」の意味・読み・例文・類語

へんそう‐きょく【変奏曲】

主題といくつかの変奏からなる楽曲。バリエーション

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精選版 日本国語大辞典 「変奏曲」の意味・読み・例文・類語

へんそう‐きょく【変奏曲】

  1. 〘 名詞 〙 楽曲の一つの主題をもとに、そこに含まれる要素をさまざまに変化させて構成した楽曲の形式。バリエーション。
    1. [初出の実例]「越天楽変奏曲の作曲者宮城道雄氏は」(出典:百鬼園随筆(1933)〈内田百〉百鬼園先生幻想録)

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改訂新版 世界大百科事典 「変奏曲」の意味・わかりやすい解説

変奏曲 (へんそうきょく)
variation

主題モティーフあるいはそれらに含まれる音楽素材を種々の手法で変形する技法を変奏といい,変奏技法が楽曲構成の基盤となっている曲を変奏曲,その楽式を変奏曲形式という。変奏は作曲における基本原理の一つで,古来あらゆる種類の音楽にみられる。例えば中世の単旋律聖歌にもすでに旋律の高度な装飾変奏が認められる。変奏の対象は,音列,音型,和声,リズム,拍子,テンポ,強弱法,音色(管弦楽法など),伴奏部,旋律全体から形式構造そのものに至るまで,音楽のほとんどすべての要素に及び,しばしばそれらが複合的に組み合わされる。変奏曲はそれ自体で独立した楽曲のこともあれば,大きな曲の一部分をなすこともある(例えば交響曲やソナタの特定の楽章)。また組曲やロンド形式ソナタ形式など他の形式と融合することも多い。

 変奏曲の構成は主題の形態によって,区分的変奏曲と連続的変奏曲に大別される。前者は主題が構造的に完結し,その後に一連の変奏部分が続くもので,〈主題と変奏〉と題されることが多い。ふつう変奏曲と呼ばれるのはこの型である。後者は,短い旋律断片あるいは和声的骨格が絶えまなく反復されていく中を他の諸要素が変奏されていくもので,シャコンヌパッサカリアがこれに属する。旋律は多くの場合低音部で固執低音(バッソ・オスティナート)として反復されるが,上声部に移ることもある。

 次に変奏技法の上からは,大きく装飾変奏,性格変奏,対位法的変奏の3種に分類される。装飾変奏は厳格変奏ともいわれるが,これは主題の基本的構造と和声の骨格はそのままで,旋律を細分化したり装飾音型を付加するもの,あるいは細部の音型やリズム,拍子,調,音色などを変化させるものである。これには16~18世紀のホモフォニックな変奏曲の多くが属する。性格変奏は自由変奏ともいわれ,これは主題の部分的特徴のみを保存して自由な変奏を行うもので,各変奏は独自の性格と構造を有し,主題との関連が不明確であることもまれではない。この種の変奏曲はベートーベン以後の19世紀に盛んになった。対位法的変奏には対位法的技法に基づくすべての変奏曲が含まれるが,とくに既存の旋律(グレゴリオ聖歌コラール,特定の世俗旋律など)を定旋律として,それ自体あるいは他の声部に変奏を加えていくものが重要である。バロック時代のオルガンのためのコラール変奏曲や固執低音による変奏曲はこれに属する。

 変奏技法の歴史はきわめて古く,おそらくそれは楽器の即興演奏における旋律的変形に始まると思われるが,変奏曲も数ある音楽形式の中で最も長い生命をもつものの一つである。独立した楽曲としてはルネサンス時代の16世紀初頭から,まずリュート鍵盤楽器のための独奏器楽曲として発展し,スペインのカベソンAntonio de Cabezón(1510ころ-66),イギリスのW.バード,ブルJohn Bull(1562ころ-1628),O.ギボンズらのバージナル楽派,イタリアでは初期バロックのフレスコバルディらによって最初の頂点が築かれた。変奏技法はバロック時代においてとりわけ重要な作曲原理となる。ヨーロッパ各地でさまざまな楽器のために多数の変奏曲が書かれた。ルネサンス末に登場した変奏組曲が定着し,J.H.シャイン管弦楽組曲のように合奏用の変奏曲も現れた。イタリア(フレスコバルディ)・南ドイツ系(フローベルガー)のパルティータ,フランス・クラブサン楽派(F. クープラン,ラモーら)のドゥーブルdouble(組曲などにおける装飾変奏の一タイプ),中・北ドイツ系(J.P. スウェーリンク,シャイン,S. シャイト)のオルガンのためのコラール変奏曲など,各国でそれぞれ独自の様式が培われ,それらはやがて18世紀前半にJ.S.バッハによって統合された(オルガンのためのコラール変奏曲,カノン風変奏曲,パッサカリア,チェンバロのための《ゴルトベルク変奏曲》,無伴奏バイオリンのためのシャコンヌなど)。

 古典派では比較的単純な装飾変奏が好まれたが(ハイドンモーツァルト,初期のベートーベン),19世紀に入るとベートーベンによって性格変奏が確立された(《ディアベリ変奏曲》など)。この傾向はロマン派ではとくにシューマン(《交響的練習曲》作品13など)に受け継がれた。19世紀ではこのほかブラームス(管弦楽のための《ハイドンの主題による変奏曲》作品56など)が重要であるが,シューベルト,リスト,フランクらにも優れた作品がある。なお19世紀に顕著になった技法に,単一の基本動機の音型を発展させながら大形式を形成していく発展変奏(シェーンベルクの用語)がある。20世紀ではレーガー,ヒンデミット,シェーンベルク,ウェーベルンをはじめ多数の変奏曲が書かれたが,とくに後の2人によって発展がみられた十二音技法(十二音音楽)においては,曲全体が基本音列の変形からなるという点で変奏技法が根本原理となった。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「変奏曲」の意味・わかりやすい解説

変奏曲
へんそうきょく
variation 英語
Variationen ドイツ語

主題、動機、音列などを種々の方法で変形する技法を変奏といい、変奏技法を楽曲構成の基本原理とする楽曲を変奏曲という。一般に「主題と変奏theme and variations」という名称でよばれることが多いが、主題呈示部のない変奏曲も存在する。変奏の原理は主題などの変形を重ねていく原理であると同時に反復の原理でもある。つまり、自己同一性と変形という相反する二つの性質により成立する統一の原理であるといえよう。その技法には大別して次の3種がある。〔1〕装飾変奏(厳格変奏) 主題の旋律やリズムなどに装飾的変化を加える。〔2〕対位法的変奏 音の横の連なりを重視する対位法による変奏技法を総称するが、とくに既存の旋律を定旋律とする変奏曲が重要である。〔3〕性格変奏(自由変奏) 主題の部分的特徴のみを保持し、自由な変奏を行う。このほか、主題の変形方法に着眼してフランスの作曲家ダンディが行った、〔1〕装飾的変奏、〔2〕修飾的変奏、〔3〕拡張(敷衍(ふえん))的変奏の3分類法もある。

 変奏の原理を用いた楽曲は古くから世界各地に存在するが、変奏曲という独立した形式をもつものが登場するのは16世紀である。スペイン、イタリア、イギリスなどのリュート、ビウエラ、鍵盤(けんばん)楽器のための作品のなかにその例がみいだされる。とりわけスペインでは、カベソンのオルガン曲集やナルバエスのビウエラ曲集のなかにまとまった形でみられる。ディフェレンシアスとよばれる楽曲がそれで、変奏曲としてはもっとも古いものの一つである。ここで用いられた変奏技法は、装飾的対位法的なものであった。この技法は、スウェーリンク、シャイト、バード、ギボンズらに受け継がれ、イタリア、イギリスなどで用いられた。17世紀に入ると、フレスコバルディのパルティータなど変奏曲は多数つくられ、また性格変奏の技法も用いられるようになる。バロック期には、組曲内のドゥーブルやコラールパルティータに変奏技法が用いられ、一方、シャコンヌ、パッサカリア、フォリアなどのオスティナートをもつ変奏曲も登場する。古典派では、モーツァルトにみられるように比較的単純化された装飾変奏の作品もつくられるが、ベートーベンに至り内容は豊かになり、彼によって性格変奏が確立された。そしてこの傾向はシューマンやリストらロマン派へ受け継がれた。現代音楽における音列作法も、ある意味において変奏の原理に立脚したものといえよう。

[アルバレス・ホセ]

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百科事典マイペディア 「変奏曲」の意味・わかりやすい解説

変奏曲【へんそうきょく】

主題,モティーフ(動機)に含まれる素材を変形する技法を変奏といい,それが楽曲構成の基盤になっているものを変奏曲とよぶ。その作曲技法には旋律的変奏(主題と同じ和音進行),和声的変奏,リズム的変奏,テンポ上の変奏,対位法的変奏などがある。J.S.バッハの《ゴルトベルク変奏曲》,ベートーベンの《ディアベリ変奏曲》などの鍵盤(けんばん)楽器用の作品が古典派以前の西洋音楽で数多く生まれた。ロマン派以後はブラームスの《ハイドンの主題による変奏曲》やチャイコフスキーの《ロココ風の主題による変奏曲》,ラフマニノフの《パガニーニの主題による狂詩曲》など,大規模な管弦楽曲や協奏曲形式の作品も多数生まれている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「変奏曲」の意味・わかりやすい解説

変奏曲
へんそうきょく
variation

楽曲の形式。一定の主題とそのいくつかの変奏から成る楽曲をいう。変奏の要素には,旋律の変形と装飾,リズムや速度の変化,和声の変化,対位法の技法などがあり,また変奏の単位ごとに区切りをもつ分節的な変奏と,シャコンヌやパッサカリアのようにオスティナート主題に基づく連続的な変奏がある。変奏の技法による芸術的な楽曲は,16~17世紀のイギリスのバージナル楽派から現れ,バロック時代にはコラールや俗謡の旋律による装飾的な変奏曲が栄えた。ベートーベン以降は,主題の輪郭のみを保持した性格変奏が多く,現代音楽ではセリーの技法による変奏曲がみられる。

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デジタル大辞泉プラス 「変奏曲」の解説

変奏曲

竹宮惠子作画、増山圭子原作による漫画作品。二人の天才音楽家を主人公としたシリーズ連作。『グレープフルーツ』1981年第1号~1985年第24号ほかに連載。朝日ソノラマ サンコミックス全3巻。

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音楽用語ダス 「変奏曲」の解説

変奏曲 [variation]

主題をもとにして、その旋律などをいろいろに変化させたもの。変化をしても、もとの主題が認識できるものでなければならない。主題は、いくつもの変奏曲を持つことができる。

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