翻訳|colostrum
分娩(ぶんべん)後数日間分泌される母乳をいう。初乳は,成乳(分娩後1ヵ月後に分泌される乳汁)や移行乳(初乳から成乳にいたる間に分泌される乳汁)にくらべて,高タンパク質,低脂肪,低乳糖である。分泌型免疫グロブリンAを主とする免疫グロブリンを豊富に含み,また食作用を有する単核細胞を含んでいる。古い日本の授乳習慣では,初乳はしぼって捨て,新生児に飲ませなかったが,欧米では,初乳のもつ下剤作用が胎便排出に有利と考えて飲ませることが勧められていた。最近では,初乳は,豊富に含まれた免疫グロブリンによって新生児の腸管を微生物の感染から守り,また,同グロブリンによって異種タンパク質などの異物の腸管透過が予防されるので,アレルギー病の予防にも意味があると考えられるようになり,出生直後の栄養としてだけではなく,免疫学的,アレルギー病学的にも,新生児に飲ませるべきものとされる。
→乳
執筆者:澤田 啓司
ウシの初乳は,親の血液よりも免疫グロブリンに富み,新生子牛は初乳をとることによって免疫性を与えられ,種々の疾病感染に対し抵抗性を得る。濃厚で黄色を帯び,異臭とわずかな苦みを有し粘度が高い。化学組成はタンパク質,脂肪および灰分の含量が多い点が特徴である。タンパク質ではカゼインが少なく,免疫グロブリンが多い。初乳のビタミンA効力は常乳の10~30倍あり,その他のビタミン類も多い。このように免疫および栄養の上から新生子牛に初乳を飲ませることは絶対必要とされている。加熱に対しては,アルブミン,グロブリンが多いために凝固しやすく,分娩後5日以内の初乳は加工に使用してはならないことになっている。
執筆者:吉野 梅夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
分娩(ぶんべん)時に乳房にたまっている乳、および分娩後3~5日間に出る黄色を帯びた濃厚な乳をいう。分娩後の哺乳(ほにゅう)あるいは搾乳ごとにその成分や外観は常乳に近づく。初乳には乳糖は少ないが他の成分は多く、タンパク質では免疫グロブリンが、ビタミン類ではビタミンAがとくに多い。新生子に免疫性を与えて感染を防ぐため、乳牛では普通新生子にかならず3日間は初乳を与える。しかし初乳は加熱によって凝固しやすく、市乳、加工用原料乳に用いることはできない。
[西田恂子]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
…その主なものは,塩素,ナトリウム,非カゼイン窒素,pH,白血球,リンパ球などの細胞数の増加,乳糖,無脂固形物,比重,酸度の減少である。(3)生理的異常乳 初乳および末期乳の性質は常乳と異なり,異常乳の一つとして扱われる。とくに分娩後数日の間に分泌される初乳は濃厚で黄色を帯びている。…
…これをフリーマーチンという。分娩10日目くらいまでの乳は初乳といい,常乳と異なり人間の飲用にならない。この初乳には免疫グロブリンが多く含まれていて,子ウシはこれによって母親から抗体を受けとる。…
…ほかの一部は増殖するため,漸次,内膜が新生され約6週間で完成する。 乳汁分泌については,産褥第1日までは少量の初乳の分泌がみられるだけであり,規則正しい成乳の分泌は産褥第2~4日に至って初めて開始する。乳房は急速に腫張・増大して結節ないし索状の硬結を触知でき,しばしば圧痛を訴え,また腋窩(えきか)リンパ節の腫張疼痛を伴うことがあり,軽度の乳熱milk feverをきたすこともある。…
… ヒトの乳腺から分泌される乳汁中には,好中球,食細胞,リンパ球などの生きた細胞が多数含まれていて抗菌作用,免疫作用に携わり,また免疫グロブリン(とくに免疫グロブリンA)を含んでいて,それが腸管における病原体の感染を防ぎ,異物の腸管壁からの吸収をブロックして感染症を予防し,胃腸管を経由するアレルギーの成立を防ぐ。免疫グロブリンAは,出生直後の哺乳量の少ない時期に分泌される初乳中には高濃度に,哺乳量の多くなる成熟乳には低濃度に含まれ,全授乳期を通じて適当量の免疫グロブリンが子に供給される。 人乳の成分は,初乳から成熟乳への移行にともなって変化し,また,毎回の授乳に際しても,飲み始めと飲み終りで変化する。…
※「初乳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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