人工栄養(読み)ジンコウエイヨウ(英語表記)artificial feeding
bottle feeding

デジタル大辞泉 「人工栄養」の意味・読み・例文・類語

じんこう‐えいよう〔‐エイヤウ〕【人工栄養】

口から栄養がとれないとき、注射・点滴・浣腸かんちょうなどによって人工的に栄養を補給すること。生理的食塩水・ぶどう糖液などが使われる。
母乳だけで新生児乳児を育てる母乳栄養完全母乳)や、母乳と人工乳粉ミルク)の両方を用いる混合栄養に対して、人工乳だけで新生児・乳児を育てること。⇔自然栄養
[類語]栄養滋養養分栄養分栄養素栄養価炭水化物含水炭素糖質糖類澱粉蛋白質アミノ酸ゼラチンコラーゲン脂肪・脂肪分・脂質ビタミンミネラル灰分無機質食物繊維

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精選版 日本国語大辞典 「人工栄養」の意味・読み・例文・類語

じんこう‐えいよう‥エイヤウ【人工栄養】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 口から食物を取ることができない場合、皮下、静脈内、または直腸などに、生理的食塩水、葡萄糖液、乳化脂肪液などを注入して不足の養分を補うこと。また、その栄養分。
  3. 母乳を用いないで、牛乳、練乳、粉乳、重湯などを与えて乳児を育てること。また、その栄養分。
    1. [初出の実例]「早産児を人工栄養(ジンコウエイヤウ)で育てやうとする時には」(出典:育児読本(1931)〈田村均〉六)

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改訂新版 世界大百科事典 「人工栄養」の意味・わかりやすい解説

人工栄養 (じんこうえいよう)
artificial feeding
bottle feeding

なんらかの理由で乳児を母乳で育てることができず,その代りに,他の栄養料を用いて乳児に栄養を与えることを人工栄養という。栄養料として最も多く用いられるのは牛乳であるが,ほかにヤギ乳または大豆乳(豆乳)などが用いられることもある。

 人工栄養の歴史は古いが,人工栄養に頼れるようになったのは1930年ころからであり,日本で調製粉乳が用いられるようになったのは50年過ぎからである。歴史的にみれば人工栄養の成功の原因としては,(1)牛乳や水での細菌汚染に対する対策の樹立(19世紀後半~20世紀前半),(2)冷蔵庫の出現,(3)ソフトカード化(1920ころ),(4)牛乳成分,とくにその濃度を人乳に近づけたこと,(5)ビタミン,とくにCおよびDの分離(1930ころ)とその添加,があげられる。

 人工栄養の歴史は,いかに牛乳を人乳に近づけるかという試みの連続であった。

人乳と牛乳の組成は表のとおりであるが,まとめると以下のようになる。(1)水分およびエネルギー量 人乳,牛乳ともほぼ等しい。(2)タンパク質 牛乳には人乳の約3倍のタンパク質が含まれる。人乳では乳清(おもにラクトアルブミン,ラクトグロブリン)よりもカゼインが少ないが,牛乳ではそれと反対の関係になっていて,牛乳のカゼイン含量は人乳の約6倍である。(3)糖質 両者とも乳糖であるが,牛乳中には人乳の1/2しか含まれていない。(4)脂肪 含有量では両者に差はないが,脂肪を構成する脂肪酸組成に違いがある。すなわち牛乳脂肪には,人乳脂肪に比べて,飽和脂肪酸,とくに低級揮発性脂肪酸が多く,不飽和脂肪酸が少ない。必須脂肪酸であるリノール酸は人乳中に多く牛乳中には少ない。(5)ミネラル 牛乳中含有量は人乳のそれの3~4倍多い。とくにカルシウムは約4倍,リンは約6倍と多い。鉄含有量は牛乳,人乳ともに少ない。(6)ビタミン ビタミンA含有量は両者とも比較的多い。牛乳中ビタミンCおよびD含有量は少ない。人乳中ビタミンC含有量は通常十分であるが,人乳中ビタミンD含有量は少ない。(7)細菌 人乳はほとんど無菌であるが,牛乳は汚染される機会が多く,かつ細菌の絶好の培地である。(8)消化の問題 人乳のカードcurd(凝乳。主としてカゼインからなる)は細かく柔らかで消化を受けやすいが,牛乳のそれは粗くかたい。この牛乳のハードカードは,加熱,穀粉添加,ホモジナイズ化,または酸添加によりソフト化することができ,消化性も良好となる。人工栄養の決定的な進歩は牛乳のソフトカード化のくふうが行われてからである。また牛乳の脂肪は人乳のそれに比べて消化されにくい。母乳栄養児の便は乳酸菌優位であるが,人工栄養児では大腸菌優位である。

現在,一般に市販,使用されている粉乳は調製粉乳と呼ばれているものであるが,これは,原料となる牛乳のタンパク質,脂肪などの栄養素の成分組成を量的および質的に人乳に近似するように改良し,それを粉乳化したものである。すなわち,タンパク質の減量,カゼインの凝固の細小化と柔軟化(ソフトカード化),カゼイン・アルブミン比の調整,シスチン・乳糖の添加,不飽和脂肪酸の増量(牛乳脂肪を植物油で置換),ミネラルの減量・調整(脱塩,カルシウム・リン比を人乳に近づける),鉄の添加,およびビタミン剤の強化などが行われている。この調製粉乳を用いて後で記すような哺乳を行えば,人工栄養の栄養学的基準は満足され,乳児の良好な発育が得られる。

現在まだ流動的であるが,中山健太郎によれば,そのおおよそは次のとおりである(1978)。

 (1)水分量 180~140ml/kg/日とする。月齢の少ない乳児ほど水分量を多くする。(2)エネルギー量 0~3ヵ月120kcal/kg/日,4~6ヵ月100~110kcal/kg/日とする。(3)タンパク質量 3.0g/kg/日前後とする。近年,2.5~3.0g/kg/日または2.0~2.5g/kg/日でよいという意見もある。3.0g/kg/日を超える必要はないように思われる。(4)脂肪 普通の調乳で2~3.5%とする。(5)糖質 普通の調乳で4~8%となるようにする。ショ糖,乳糖,滋養糖,デキストリンなどが単独に,または混合して用いられる。(6)ミネラル 牛乳の3分の2程度の濃さの調乳でミネラルの所要量を十分に満たすことができ,かつ腎溶質負荷の点についても安全である。(7)調乳の濃さ 通常,70kcal/dl前後にしてある。(8)ビタミン ビタミンC50mg/日,ビタミンD400IU/日の添加が必要。(9)授乳量 1日1000ml,1回に200mlを超えない。授乳回数は1日5~8回とする。これ以上必要なときは,摂取する乳汁量を増すより離乳食に移行したほうがよい。

(1)調乳法 調乳器具 透明で洗いやすく,煮沸や水冷でこわれにくいガラスまたはプラスチック製のものを選ぶ。乳首は弾力性があって熱に強く,煮沸でべとつかないものがよい。器具の清潔 器具は使用後直ちにていねいに水洗する。その後哺乳瓶は10分間,乳首は3分間程度煮沸消毒する。ただし3ヵ月以上では熱湯でゆすぐ程度でもよい。調乳法 調製粉乳は授乳のたびごとに調乳するのを原則とする。順序は,(a)消毒ずみの哺乳瓶に60℃前後の湯を必要量の2/3程度入れ,ついで調製粉乳の指示量を入れ,軽く振って溶かす。(b)湯をさらに追加して指示量とする。(c)適温(40℃くらい)にまで冷やしてから与える。(d)全操作は汚染に気をつけて清潔に行う。

(2)授乳のやり方 人工栄養の場合は,母乳栄養の場合に比べて,消化吸収の面および中間代謝の面で乳児に与える負担が大きいので,乳の濃度,授乳回数,授乳間隔などは,指示どおりに行うことが必要である。授乳回数と授乳間隔 新生児期では1回量20mlくらいから始め,1ヵ月ころでは1回量100~120mlとし,3時間ごと,1日6~8回くらいとする。1ヵ月を過ぎれば,授乳間隔を3~4時間とし,1日5~6回とする。夜間の授乳はやめる。指示されている調乳濃度はみだりに変更してはならない。授乳量は個々の乳児の食欲に応じて定めるが,これは,各乳児によって,また同一の乳児でも時間によって異なるので,いつでも一定量を飲ませようと強制してはならない。授乳するときの注意 乳児の体を斜めに抱く。哺乳瓶からミルクを与える場合,哺乳瓶の底部を上方に上げ,乳首の部分に空気が入らないようにする。乳首の穴の大きさは,哺乳瓶を逆さにしたとき,乳がぽたぽたと滴になって落ちるくらいの程度がよい。1回量のミルクは通常10~15分くらいで飲み終わるのがおおむねの標準である。授乳の途中で乳首が陰圧でつぶれたら,授乳を途中で休み,瓶の中に空気を入れてやる。授乳後1回または授乳の途中と授乳後の2回,乳児を向い合せにやや高く抱き,背中を軽くなでて,飲み込んだ空気を吐き出させる。これをやらないですぐに寝かすと,乳児は不機嫌となり,また吐乳の原因となる。なお,乳児の食欲のないときに無理に飲ませると食欲不振の原因となるので注意したい。また,飲み残したミルクを次にまわしてはいけない。

母乳と調製粉乳の両方で栄養を行うことを混合栄養という。これには,(1)母乳を与えた後で,毎回あるいは不足したときにミルクを補う方法,(2)1日数回,母乳栄養のみで授乳を行い,母乳とミルクを交互に与える方法の2通りがある。
混合栄養 → →母乳
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「人工栄養」の意味・わかりやすい解説

人工栄養
じんこうえいよう

母乳を用いずに乳児を哺育(ほいく)することをいう。母乳不足であったり、母親が疾病のため授乳できない、あるいは母親が就労中のため母乳が与えられないなどの理由によって、母乳以外の人工乳によって哺育が必要とされることがある。また混合栄養といって、母乳と人工乳を併用する場合もある。

 人工栄養は、かつてはほとんどが牛乳をベースとし、乳児の月齢に応じて1/3乳、1/2乳、2/3乳と種々に薄めたり、砂糖を加えたり、検討とくふうが重ねられてきた。しかし、牛乳を用いた人工栄養方式に基づく栄養成績はかならずしも十分とはいえなかった。人工栄養法が比較的安全になってきたのは、調製乳が普及し始めた1955年(昭和30)前後からであり、とくに60年以降、特殊調製粉乳が出現して、授乳法も簡単となり、栄養成績も向上してきている。調製粉乳は年々改良され、母乳の栄養効率に近づけるように努力されている。とくにタンパクを消化・吸収しやすいソフトカード化、脂肪の一部を植物油に置き換えることによって、その消化・吸収性を高め、あるいは乳糖やビタミン、鉄剤などの添加によって、母乳と同様の栄養効率を図る方向で調製されている。

 このように調製粉乳が改善された今日においては、乳汁期の人工栄養には調製粉乳がもっとも適しており、原則として牛乳を用いるべきではない。また離乳期以後については、離乳食が少ない間は調製粉乳を用いるべきで、3回食となる9か月ごろから牛乳に切り替えることが望ましい。

 人工栄養に関しては、授乳量が問題となり、自律授乳とすべきかどうかが論じられている。現在では自律授乳方式といって、乳児の欲するときに、欲しがるだけ与える方法が普及しているが、この際に留意すべき点が二つある。第一は、人工栄養では、発達に応じた授乳の間隔や回数は一定にしておき、毎回の哺乳量を欲しがるだけ与えるという方法が好ましい。第二は、自律哺乳能力が成熟する生後2か月までは、自律授乳に依存することは危険で、1回量200ミリリットル、1日量1000ミリリットルを超さないように制限する必要がある。つまり、生後しばらくしてから2か月ごろまでは、反射的に吸う段階にあり、吸う力のみが強く、調整力が不十分なため、飲みすぎる傾向がある。

 人工栄養は、母乳栄養が困難な場合に行われるわけで、現実的に必要な栄養法であるから、母乳栄養の優れていることを強調しすぎるあまり、母乳栄養でないことに対する無用な罪悪感を母親に抱かせないことがたいせつである。特殊調製粉乳が開発されて以来、年々人工栄養も向上している現在、なによりもたいせつなことは、母親にとっても乳児にとっても、快適な授乳を行うことにあることを忘れてはならない。

[帆足英一]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人工栄養」の意味・わかりやすい解説

人工栄養
じんこうえいよう

母乳以外の人工乳汁を乳児に与えること。母乳不足,授乳困難,授乳禁止など,母親の身体的,医学的理由および母の就労などの社会的,経済的理由から行われる。人工乳の材料として,牛乳ややぎ乳,調製粉乳が用いられ,乳児の月齢や発育状態に応じて調乳して与える。授乳に用いる哺乳瓶や乳首の消毒をはじめ,調乳の際の無菌的操作が必要である。乳汁の温度は 38℃ぐらい,乳児の状態によって,乳首の穴の大きさを調節して,およそ 10~15分で飲み終るようにする。授乳時間が長引くときには,乳汁の味や温度,乳首の穴の大きさなどについて検討する。

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妊娠・子育て用語辞典 「人工栄養」の解説

じんこうえいよう【人工栄養】

母乳に代わる栄養で赤ちゃんを育てること。その昔はヤギのお乳、牛のお乳、コンデンスミルクなども用いられました。現代では、市販の育児用ミルク(粉ミルクと液体ミルクがあります)を指します。

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の人工栄養の言及

【新生児】より

…生後2~3日間は母乳分泌が少ないが,繰り返して乳頭を吸わせていると,生後3~4日ころに急に乳房がはってきて,母乳分泌がよくなる。それまでは母乳分泌が少ないからといって人工栄養を足してはならない。不足分は5%ブドウ糖液を飲ませて補う。…

※「人工栄養」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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