大庭みな子(読み)オオバミナコ

デジタル大辞泉 「大庭みな子」の意味・読み・例文・類語

おおば‐みなこ〔おほば‐〕【大庭みな子】

[1930~2007]小説家東京の生まれ。本名美奈子アラスカ風土背景に描いた「三匹のかに」で芥川賞受賞。他に「がらくた博物館」「寂兮寥兮かたちもなく」「く鳥の」「海にゆらぐ糸」「赤い満月」など。芸術院会員。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「大庭みな子」の意味・わかりやすい解説

大庭みな子
おおばみなこ
(1930―2007)

小説家。東京生まれ。津田塾大学卒業。本名美奈子。海軍軍医の父に従い海軍の要地を転々と移住、第二次世界大戦の終戦を広島県西条で迎えた。原爆投下直後の広島で救援隊として活動。結婚後、娘とともに夫の任地アラスカに移住した。11年に及ぶ滞在生活のなかで、アラスカの風土を背景に根無し草のように生きる男女の焦燥や孤独感を書いた『三匹の蟹(かに)』(1968)で芥川(あくたがわ)賞を受賞。続いて『幽霊達の復活祭』『ふなくい虫』(ともに1969)を発表。帰国後も旺盛(おうせい)な創作活動を続け『栂(つが)の夢』(1971)、『トーテム海辺』(1973)、『がらくた博物館』(1975、女流文学賞受賞)、自伝的要素の濃い『霧の旅』第Ⅰ・Ⅱ部(1976~80)などを発表。さらに原爆体験を通して戦後日本人の精神と欲望の自己認識を描いた『浦島草』(1977)、『楊梅洞物語(ようばいどうものがたり)』(1979~84)、老荘思想への共鳴もみられる『寂兮寥兮(かたちもなく)』(1982、谷崎潤一郎賞受賞)、『啼(な)く鳥の』(1984~85、野間文芸賞受賞)、『海にゆらぐ糸』(1988、川端康成文学賞受賞)、『二百年』(1992)、『赤い満月』(1995、川端康成文学賞受賞)などを次々と発表した。これらの作品では、女と男、母と娘、さらには人間以外の存在をも含めた生命の連鎖を描き、女性の文学の新たな可能性を示した。ほかに評伝『津田梅子』(1989~90、読売文学賞受賞)、『むかし女がいた』(1991~94)などがある。芸術院会員。また、河野多恵子とともに女性で初めての芥川賞選考委員に就任(1987~97)した。

[田中夏美]

『『大庭みな子全集』全10巻(1990~91・講談社)』『『大庭みな子全詩集』(2005・めるくまーる)』『『三匹の蟹』(講談社文芸文庫)』『『津田梅子』(朝日文庫)』『『むかし女がいた』(新潮文庫)』『『浦島草』(講談社文芸文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「大庭みな子」の意味・わかりやすい解説

大庭みな子
おおばみなこ

[生]1930.11.11. 東京
[没]2007.5.24. 千葉
小説家。本名美奈子。軍医の父の赴任先,広島市で原子爆弾投下後の救護活動に動員された経験をもつ。津田塾大学卒業。 1959年夫の仕事の都合で渡米,アラスカで 11年を過ごす。この間の 1968年に『三匹の蟹』で群像新人賞,次いで芥川賞を受賞。アメリカ合衆国に滞在する日本人の生活を描くこの作品では,日本と世界,日本人と外国人をことさらに区別していないが,一度英語を介した日本語ともいうべき文体から,生存の根から切り離されたものの日常が象徴的に立ち現れてくる。 1987年河野多恵子とともに芥川賞初の女性選考委員に就任,1997年まで務めた。 1991年日本芸術院会員。 1996年病に倒れたが,詩や短歌を発表していた。主著に『虹と浮橋』 (1968) ,『浦島草』 (1977) ,『寂兮寥兮 (かたちもなく) 』 (1982,谷崎潤一郎賞) ,『啼く鳥の』 (1985,野間文芸賞) ,評伝『津田梅子』 (1990,読売文学賞) などがある。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「大庭みな子」の解説

大庭みな子 おおば-みなこ

1930-2007 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和5年11月11日生まれ。夫の任地アラスカに11年滞在する。昭和43年「三匹の蟹」で群像新人賞および芥川賞。骨太な作風を展開し,50年「がらくた博物館」で女流文学賞,57年「寂兮寥兮(かたちもなく)」で谷崎潤一郎賞,61年「啼く鳥の」で野間文芸賞,平成3年「津田梅子」で読売文学賞。15年「浦安うた日記」で紫式部文学賞。芸術院会員。平成19年5月24日死去。76歳。東京出身。津田塾大卒。本名は美奈子。

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