翻訳|mandate
第1次大戦に敗れたドイツおよびトルコの統治を離れた地域を統治するために,国際連盟規約22条に基づいて設けられた制度。南アフリカのスマッツ将軍は,ロシア,トルコなどに属した地域は国際連盟自身または連盟が委任する国家によって統治されるべきであると主張した。アメリカのウィルソン大統領は,適用範囲について,ロシアを除き,ドイツの植民地を加えて,スマッツに同調した。日本,イギリス,フランスなどは,アメリカ参戦前にドイツ植民地を占領したうえ,領土権の分配をも互いに約束していたが,同盟国のこのような動きを阻止したいウィルソンにとって,委任統治は好都合な方法であった。結局,連盟規約22条に規定された制度は,領土割譲を望んだ同盟国と,それに反対したアメリカとの妥協の産物である。委任統治は,住民の政治的・経済的〈発達程度〉などにより,A式,B式,C式の3クラスに分類された。A式は旧トルコ領の中近東地域に適用され,イラク,パレスティナ(およびトランスヨルダン)はイギリスが,シリア,レバノンはフランスが受任国となった。同地域の住民は独立国として仮承認を受けられる〈発達程度〉に達していると認定されたので,受任国は,住民が独立するまで,助言と援助を与えるにとどまった。住民は,受任国の国籍とは別の新しい国籍を取得した。B式は中央アフリカおよび東アフリカの旧ドイツ植民地に適用され,西トーゴーランド,西カメルーン,タンガニーカはイギリスが,東トーゴーランド,東カメルーンはフランスが,ルアンダ・ウルンディはベルギーが受任国となった。C式も旧ドイツ植民地に適用され,南西アフリカは南アフリカが,サモアはニュージーランドが,ナウルはイギリス帝国(イギリス,オーストラリア,ニュージーランド)が,赤道以南の太平洋諸島はオーストラリアが,赤道以北の太平洋諸島は日本が受任国となった。B式およびC式において,受任国は委任統治地域を自国領土の構成部分として統治することを認められたが,住民は,受任国の国籍も独立の国籍も与えられなかった。国際連盟が行う監督方法に関して連盟規約が規定したのは,受任国の年報提出義務にとどまる。しかし,とにかく国際組織が監督を行うという点で,委任統治は,従来の植民地統治にくらべて新しい制度であったと評価される。国際連合の信託統治は,委任統治を引き継いだ制度であるが,監督体制は強化された。
→信託統治
執筆者:松田 幹夫
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国際連盟が設けた植民地統治の監督制度。第二次世界大戦後、国際連合の信託統治制度に引き継がれた。19世紀の初めまで、植民地は施政国がまったく自由に統治していたが、19世紀の中ごろから、原住民保護を目的とした条約がしだいに結ばれるようになった。しかし、これらの諸条約は主として施政国自身の利益保持の観点から実施されたため、その誠実な履行を監視する必要があった。このため設けられたのが委任統治制度である。この制度は、植民地人民の発達の程度に応じて、A、B、Cの三方式に分けられたが、いずれの地域においても、施政国は住民に対して、良心および信教の自由を認めることと、奴隷売買や武器、酒類の取引などの悪習を禁止することが義務づけられた。そして施政国は、年報の審査などの手段により、この義務の履行について国際連盟の監督を受けた。ただし、この制度のもとに置かれたのは、第一次大戦の結果、敗戦国ドイツおよびトルコから分離された地域に限られ、それをイギリス、フランス、ベルギー、日本などの戦勝国が、国際連盟にかわり受任国として統治することとされたのである。このように、委任統治制度の設立には、第一次大戦の戦勝国による植民地再分割の意図を隠蔽(いんぺい)しようとする目的があったことは否めない。しかし、これによって史上初めて植民地統治の国際的監督が実現したのであり、原住民の保護は大きく前進することになった。
[太寿堂鼎]
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第一次世界大戦によってドイツとオスマン帝国の手から離れた植民地や領土を,国際連盟の監督のもとに一定の先進国の保護に委ねた統治形態。協商国側では,ドイツの旧植民地併合の要求が強く,またトルコの旧領土については,すでに大戦中に分割の秘密協定があったが,大戦の終結にあたっては民族自決,「無併合・無償金」の平和原則の潮流を無視することはできなかった。そこで,一種の妥協的形式として委任統治が考案された。委任統治領は,住民の政治意識などに応じて3種類に分けられたが,実質的には統治国,つまり受任国の国家領域の性格が強かった。
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…信託統治は,信託統治協定という特別の協定によって,特定の非自治地域を国連の監督下におき,統治国または国連自身に施政させる制度である。 国際連盟の委任統治の性質は,〈住民の発達程度〉により,A式,B式,C式の3クラスに分類された。A式は旧トルコ領の中近東地域に適用されたが,同地域の住民は,独立国として仮承認を受けられる発達程度に達していた。…
※「委任統治」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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