納涼開始を祝い楽しむとともに、水難者の供養や水難防止祈願の水神祭をも兼ねた行事。各地の河川で、7月上旬から8月上旬にかけて行われる。なかでも東京・隅田(すみだ)川の両国川開きは有名で、江戸中期以降趣向を凝らした打上げ花火が人気をよんで、多くの人出をみるようになり、明治以降も東京の夏の景物詩としてにぎわった。しかし交通安全などの見地から1962年(昭和37)以降中断し、78年に隅田川花火大会として復活、それまでよりすこし上流で行われるようになっている。現在では7月最終土曜日の行事であるが、江戸時代には5月28日(陰暦)に行われていた。この日は曽我(そが)兄弟の討ち死にに関して「虎(とら)が雨」の降るとされた日で、なんらかの水にまつわる信仰を背景にして成立した行事であることが推測できる。京都・四条河原の納涼も期間内に祇園(ぎおん)の御霊会(ごりょうえ)を含むものであったし、宮城県石巻市の川開きは、北上川付け替え工事をした川村孫兵衛(まごべえ)の慰霊祭と水難者の供養を主としたものである。暑さも募り、水に親しむことの多くなるこの時期には、疫病も増え水の事故も多発するために、各地で川祭り、水神祭が行われるが、川開きの多くは、これら水の災厄を祓(はら)い、事故者の霊の供養をしようとする川辺の祭りが納涼の風と結び付き、さらに打上げ花火などの華やかさを取り入れて、しだいに観光行事化し盛んになったものと思われる。
[田中宣一]
納涼開始を祝うとともに,水難者の供養や水難事故防止を願っての水神祭をも兼ねた行事。7月中旬から8月上旬にかけて各地の河川で行われる。中でも東京隅田川の川開きは有名で,江戸中期以降趣向をこらした花火が人気を呼び,明治以降も多くの人出が見られたが,1962年に交通安全等の見地からいったん廃止され,のち復活した。江戸時代には陰暦5月28日に行われたが,この日は曾我兄弟の討死に関連して〈虎が雨〉の降るとされた日で,水にまつわる信仰を背景にして始まった行事なのであろう。京都四条河原の納涼も期間内に祇園の御霊会をはさむものであったし,宮城県石巻でのように川の開削者川村孫兵衛の慰霊祭を兼ねるものもある。現在では花火などを中心にして観光行事化したものが多いが,古くから続いている川開きの多くは,種々の霊を供養したり災厄をはらおうとする川辺の祭りが納涼の風と結びついて盛んになったものといえよう。
執筆者:田中 宣一
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…洪水は減少し,47年のカスリン台風による大洪水にも,隅田川には破堤を伴う大水害は起こらなかった。 隅田川は近くに浅草があり,舟遊び,釣り,花見,川開きの花火などで親しまれてきたが,第2次世界大戦後は工場廃水による水質汚濁や地下水の過剰くみ上げによる地盤沈下など環境悪化が著しく進んだ。洪水や高潮の害の防止のため,河口から岩淵までの両岸には防潮岸壁が設けられ,水辺の親水性も低下した。…
…円山応挙の弟子山口素絢の《四条河原納涼図》がその情景を描いており,井原西鶴などの浮世草子にもそのにぎわいが記されている。江戸では納涼の初日は旧暦5月28日で,隅田川の川開きの行事がおこなわれ,それから3ヵ月間が夕涼みの期間であった。大身衆(たいしんしゆう)や旦那(だんな)衆に好まれた隅田川の涼み船は慶長(1596‐1615)ころに始まるが,しだいに大型になって,やがて新発明の屋形船(やかたぶね)が造られた。…
…花火は元禄時代(1688‐1704)以後,江戸でしだいに豪華となったもので,夏には隅田川で規模の小さい茶屋花火が行われるようになり,また花火船があって,船遊山(ゆさん)の客の求めに応じて代金をとって花火を上げて見せるようになった。そして旧暦5月28日から8月28日までの間を納涼期間に定めて,川べりの食物屋,見世物小屋,寄席などが夜半まで営業が許されたので,その第1日目の5月28日(のちには7月下旬)を〈川開き〉と称し,両国橋と新大橋との間で大花火を上げることが行われるにいたった。その費用は船宿と両国辺の茶店などから支出された。…
※「川開き」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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