引手(読み)ひきて

精選版 日本国語大辞典 「引手」の意味・読み・例文・類語

ひき‐て【引手】

〘名〙
① 襖(ふすま)障子・たんすなど、戸の開閉や引出しの出し入れのために、手をかけて引く所。また、そこについている金具や細長い緒。ひきもの。
正倉院文書‐天平宝字六年(762)造石山院所用度帳「五十斤十二両引手十四勾重」
② 引っ張る人。綱などをつけて、物を引く人。
源氏(1001‐14頃)須磨「こころありてひきての綱のたゆたはばうち過ぎましや須磨のうら浪」
③ 手引きする人。先に立って導く人。案内者。また、さそったり呼びかけたりする人。〔文明本節用集(室町中)〕
※洒落本・仲街艷談(1799)「つりと引手に五せっくの樽しゃうゆでちゃ屋のかたをもつのか」
⑤ (「挽手」とも書く) 和船帆柱を起こしたり倒したりする時、柱にかけて引く綱。麻でつくる。〔船皆具之名并遣方(17C末)〕
馬具の轡(くつわ)の部分の名。手綱(たづな)を結びつけるための穴。みずつき。〔今川大双紙(15C前)〕

ひく【引】 手(て)

① 子の日の小松菖蒲の根などを引き抜く手。
※寛治七年媞子内親王根合(1093)「あやめ草ひくてもたゆくながき根のいかであさかの沼に生ふらむ〈藤原経実〉」
② 誘う人。誼(よしみ)を求める人。
御伽草子・鉢かづき(室町末)「ひきすてられし琴のねの、よそにひく手(テ)もあるやらん」
③ 舞の手の名。手を手前へひくこと。
申楽談儀(1430)序「金泥の経を脇の為手にやりて、引てより舞ひ出しし也」

ひっ‐て【引手】

〘名〙 (「ひきて(引手)」の変化した語)
① =ひきて(引手)①〔文明本節用集(室町中)〕
② =ひきて(引手)⑥〔日葡辞書(1603‐04)〕
随筆貞丈雑記(1784頃)一三「みづつきはひっ手の事手綱を付るかね也」

ひき‐で【引手】

〘名〙 (弓を射るとき矢を弦につがえて後方に引くところから) 射術で、右手のこと。めて。⇔押手(おして)
夫木(1310頃)二〇「あづさ弓ひきての山のほととぎす雲を宿とやおしているらむ〈藤原基家〉」

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デジタル大辞泉 「引手」の意味・読み・例文・類語

ひき‐て【引(き)手】

障子・戸・引き出しなどの開閉の際、手をかけるために取り付けた金具やひも
引っ張る人。物を引く人。
手引きする人。案内する人。
引き手茶屋」の略。

ひき‐で【引(き)手】

弓術で右手のこと。めて。⇔押し手

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典(旧版)内の引手の言及

【轡】より

…馬を使う上で最も重要なものである。馬の口中に入る部分を銜(はみ),銜の両端につけて轡を面繫(おもがい)につなぐ部分を鏡板(かがみいた),銜の両端に組み合わせて手綱を結びとめる棒状の部分を引手(ひつて)という。騎乗者や御者はこの手綱を通じて馬を制御する。…

※「引手」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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