引越し(読み)ヒキコシ

デジタル大辞泉 「引越し」の意味・読み・例文・類語

ひき‐こし【引(き)越し】

ひっこし」に同じ。
「ここへ―の当時は」〈漱石吾輩は猫である

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「引越し」の意味・わかりやすい解説

引越し (ひっこし)

新築の家や修理の終わった家に入居したり,別の家に移り住むこと。地方によって屋移り,宿替(やどがえ)などともいう。現在でも家財運搬ほかに,手伝いの人々のもてなしや近隣の人々へのあいさつが行われるが,古くはいろいろな儀式習俗を伴った。中世の貴族社会では引越しを移徙(いし)/(わたまし)と呼び,水と燭を捧げた童女2人と黄牛を先頭にした行列を組んで移住し,その後の宴会では粥(かゆ)や湯漬(ゆづけ)を食した。この場合の水と燭(火)は,旧居から新居への住生活の連続性を象徴しており,黄牛は七夕牽牛織女の伝説に由来するものと考えられていた。粥については,江戸時代に伊豆地方で小豆粥を食したことが記録されており,現在でも静岡県東部の農村では,屋移り粥と称する粥をつくり,行列を組み歌を唱しながら,この粥を新居にふりかける習俗が残っている。この習俗を参考にすると,粥をつくり食することは,単にいそがしい引越し作業の後の軽食としての役割だけではなく,そのことによりいち早く新居になじむという意味が含まれていたのではないかと考えられる。粥を食することは静岡県以外でも行われており,またそのほかに,引越しのとき最初に新居に持って入る物品しきたりとして定まっている地方もある。それらは神棚仏壇,鍋,米俵,馬,木綿車など,家の祭祀や農家の生産労働を象徴するようなものが多い。都市の引越し習俗としては,江戸時代に,江戸では蕎麦(そば)を近所に配り大坂では付木(つけぎ)を配ったことが記録されている。現在でも東京その他の都市では,引越しの後に蕎麦の券を近所に配る習慣が残っており,引越し蕎麦と呼ぶ。これはおそらく中世の移徙の粥の変化したものであろう。なお建築の完成を祝う儀礼として,上棟(じようとう),立柱(りつちゆう),遷宮,供養,新室宴(にいむろうたげ)/(にいむろほがい)などがあるが,住宅建築では引越しの祝いと建築完成の祝いとが一致することが多い。《古事記》や《日本書紀》に記された新室宴では,歌舞を伴った祝宴が存在し,歌のなかでは建築の安全や住む人の幸運が祈られている。これも引越しの儀礼の古い形式と考えることができる。
建築儀礼
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の引越しの言及

【建築儀礼】より

…〈屋移り粥(やうつりがゆ)〉と呼ばれる粥をつくって,村人が歌をうたいながらそれを新築の家にふりかける習俗を伝える地方もある。なお,中世の貴族住宅でも,新しい住いに移り住むことを移徙(わたまし)と呼び,その際に粥をつくって祝う習俗が見られる(引越し)。 現代日本では,建築儀礼は伝統的な木造建築に限らず,鉄筋コンクリートや鉄骨構造の建築についてもひろく行われており,一般に地鎮祭と上棟式の二つが主になっている。…

【移徙】より

…中国では地神である土公は四季七十二候にわたり変化するゆえ七十二候を星神と見立ててこれをまつり,護符や鎮瓶の形で呪物化し,新居の安全を祈ったのである。移徙の祝言に際しては中世以来,赤・檜皮・萌葱・薄青・桜等の色が忌まれ,白の襖(あお),狩衣(かりぎぬ)を着すべきものとされ,近世の民間では小豆粥を煮て食し,あるいは引越しの際には近所へ江戸・大坂ではそばまたは付木(つけぎ)を1把ずつ配る風習が行われた。〈わたまし〉は新築落成祝の意味に使われることもあり,沖縄石垣島では墓の落成日の祭りを指す。…

※「引越し」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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