夏目漱石の最初の長編小説。1905年(明治38)1月から06年8月まで,《ホトトギス》に断続的に発表。上・中・下巻として1905-07年刊。文明中学の英語教師苦沙弥の家に飼われている猫の目を通して,同家に出入りする美学者の迷亭,物理学者の寒月,新体詩人の越智東風ら〈太平の逸民〉の超俗ぶりを,実業家の金田一家に代表される世間との対比によって描く。彼らの間に交わされる駄洒落や,滑稽なエピソードが読者の笑いをさそう。その滑稽味のゆえに,発表当時,〈高等落語〉(上司小剣)とも評された。たしかに江戸っ子漱石の生地であった江戸町人の軽口,駄洒落は〈落語〉の笑いに通じるが,それが〈高等〉であるゆえんは,知識人漱石の深い厭世観に根ざす文明批評が,滑稽味と独特に混合しているからである。
執筆者:桶谷 秀昭
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
夏目漱石(そうせき)の最初の長編小説。1905年(明治38)1月から6年8月まで『ホトトギス』に連載され、5年10月~7年5月、全3巻で大倉書店・服部書店より共同で刊行。中学教師の珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)の家に飼われる猫が、そこに集まる高等遊民たちの言動を観察、記録して、人間の愚劣・滑稽(こっけい)・醜悪を痛烈に批判し、嘲笑(ちょうしょう)するという趣向の小説。高浜虚子(きょし)の勧めで写生文として書いたものだが、読者の支持を受け、11回にわたって書き継がれた。苦沙弥は戯画化した漱石自身で、見る機能としての猫の目を設定して、人間社会と自己を自在に笑い飛ばす自由を手に入れている。金権主義の実業家に対する罵倒(ばとう)など、漱石の正義感が遺憾なく吐露され、パロディーやカリカチュアライズ、デフォルメなどの手法も多用されている。落語を思わせる語り口や近世以来の言語遊戯など、痛快な笑いの文学となった。小説家夏目漱石の誕生を告げた記念すべき作品である。
[三好行雄]
『『吾輩は猫である』(新潮文庫・角川文庫・旺文社文庫・講談社文庫・岩波文庫)』
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