河合隼雄(読み)かわいはやお

日本大百科全書(ニッポニカ) 「河合隼雄」の意味・わかりやすい解説

河合隼雄
かわいはやお
(1928―2007)

臨床心理学者、心理療法家。兵庫県に生まれる。1952年(昭和27)京都大学理学部卒業。いったん高校教師になるが、心理学を勉強するために京都大学大学院入学。1959年アメリカ、カリフォルニア大学に留学し、ロールシャッハ・テストユング派精神分析を学ぶ。1962~1965年スイスチューリヒのユング研究所に留学。日本人で初のユング派精神分析家の資格を得る。帰国後、京都大学教授、国際日本文化研究センター所長などを歴任。京都大学名誉教授。

 河合の業績の一つは、ユング派の分析家カルフDora M. Kalff (1904―1990)が考案した箱庭療法(患者に砂箱を与え、その中におもちゃや小物を並べさせる治療法)を日本において普及させたことである。その業績にもみられるように、河合の立場では、分析家や心理療法士は患者に対して積極的に関与するのではなく、患者が自ら物語をつくりだすのを側面から援助する者としてとらえられている。

 1988年日本臨床心理士資格認定協会を設立し、臨床心理士の資格を社会的にも確立した。

 ユング研究所時代の河合のテーマは日本神話だった。記紀神話をはじめ、民話仏教説話、伝説、口承文芸などに注目して、日本人の心の奥底にあるものを読みとろうとする。それはともすれば日本人を特権的な対象として措定したり、ナショナリズムを補強する理論のようにも誤解されがちであるが、むしろその発想は神話的思考に原初の哲学をみるレビ・ストロースの「野生の思考」(精密自然科学発生以前に確立していて、現在もわれわれを深層において規定している思考の様式)に近い。

 一般啓蒙書やエッセイも多く、対談・座談名手としても知られ、作家の村上春樹との『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(1996)、宗教学者の中沢新一との『ブッダの夢』(1998)、『仏教が好き!』(2003)、エッセイスト、イラストレーターの南伸坊(みなみしんぼう)(1947― )との『心理療法個人授業』(2002)などの対談書がある。

 2002年(平成14)文化庁長官に就任。『昔話と日本人の心』(1982)で大仏(おさらぎ)次郎賞、『明恵 夢を生きる』(1987)で新潮学芸賞受賞。1995年紫綬褒章(しじゅほうしょう)受章。

[永江 朗]

『『河合隼雄全対話』1~10(1989~1999・第三文明社)』『『河合隼雄著作集』1~14(1994~1995・岩波書店)』『河合隼雄総編集『講座心理療法』1~8(2000~2001・岩波書店)』『『河合隼雄著作集 第2期』1~11(2001~2004・岩波書店)』『河合隼雄・南伸坊著『心理療法個人授業』(2002・新潮社/新潮文庫)』『河合隼雄・中沢新一著『仏教が好き!』(2003・朝日新聞社/朝日文庫)』『『昔話と日本人の心』(岩波現代文庫)』『『明恵 夢を生きる』(講談社+α文庫)』『河合隼雄・村上春樹著『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(新潮文庫)』『河合隼雄・中沢新一著『ブッダの夢』(朝日文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「河合隼雄」の意味・わかりやすい解説

河合隼雄
かわいはやお

[生]1928.6.23. 兵庫,篠山
[没]2007.7.19. 奈良,天理
臨床心理学者,元文化庁長官。1952年京都大学理学部数学科を卒業。同大大学院に籍を置きながら高校教諭として 3年間勤める。大学院では心理学を学び,1959年カリフォルニア大学に留学。続いて 1962年から 3年間スイスのユング研究所で学び,日本人初のユング派分析家の資格を取得する。帰国後,天理大学教授,京都大学助教授を経て 1975年京都大学教授。日本でドラ・カルフの箱庭療法を実践し,ユング派心理療法(→精神療法)の普及に努めた。1985年に日本心理臨床学会を設立,初代理事長に就任。1987年から国際日本文化研究センター教授を併任,1995年に同センター長となった。文学,宗教など幅広い分野で活躍し,1982年に『昔話と日本人の心』で大佛次郎賞,1988年には『明恵夢を生きる』で新潮学芸賞を受けた。2000年に文化功労者に選ばれ,2002年には民間人として 3人目の文化庁長官に就任した。(→ユング

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百科事典マイペディア 「河合隼雄」の意味・わかりやすい解説

河合隼雄【かわいはやお】

心理学者。兵庫県生れ。京都大学理学部卒。天理大学教授,京都大学教育学部教授,国際日本文化研究センター教授を歴任,京都大学名誉教授,国際日本文化研究センター名誉教授。1962年から1965年にかけてスイスのユング研究所に学び,日本人として初めてユング派分析家の資格を取得,ユング心理学をはじめ,精神疾患患者へのセラピーとして用いられていた箱庭療法を日本へ紹介し,日本の心理学界および臨床現場に多大な影響を与えた。著作に《ユング心理学入門》《箱庭療法入門》《無意識の構造》《中空構造日本の深層》《明恵 夢を生きる》《こころの処方箋》《神話と日本人の心》《未来への記憶》など多数。1982年《昔話と日本人の心》で大佛次郎賞を受賞。1995年5月から2001年5月まで国際日本文化研究センター所長,2002年1月から2007年1月まで文化庁長官を務め,同長官在任中には,文部科学省が全国の小中学校向けに作製した道徳の副教材《こころのノート》の編集に携わった。

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「河合隼雄」の解説

河合隼雄 かわい-はやお

1928-2007 昭和後期-平成時代の心理学者。
昭和3年6月23日生まれ。河合雅雄の弟。スイスのユング研究所にまなび,日本人ではじめてユング派分析家の資格をえる。昭和50年京大教授,平成7年国際日本文化研究センター所長。日本文化をテーマに活発な著作活動を展開。12年文化功労者。14年文化庁長官。平成19年7月19日死去。79歳。兵庫県出身。京大卒。著作に「ユング心理学入門」「昔話と日本人の心」「明恵 夢を生きる」など。

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