シラネアオイ(英語表記)Glaucidium palmatum Sieb.et Zucc.

改訂新版 世界大百科事典 「シラネアオイ」の意味・わかりやすい解説

シラネアオイ
Glaucidium palmatum Sieb.et Zucc.

1種1属1科の,日本に固有な植物で,シラネアオイ科に分類される。中部以北の雪の多い地方の林の縁や中,また雪渓雪田のそばなどにも生える。ふつう高さ15~40cm,花後は伸長して60cmに達する。根茎は横にはい,花茎には2~4枚の茎葉と,基部にはふつう1枚の根生葉がある。根生葉は長い葉柄をもち,葉身は大きく,5~11中裂し,鋭い鋸歯がある。茎葉は小さく,葉柄も短く,上部のものはほとんど無柄となり,しばしば分裂しない。5~7月のころ,1個の大型の美しい花が茎の先端につき,傾きかげんに開く。萼片は4枚,長さおよそ3.5~4.5cm,淡紫色,まれに白色,花弁状。花弁はない。おしべはひじょうに多く,葯は黄色。めしべはふつう2本,基部で合着する。成熟するにつれ,めしべの基部の合着部は伸長し,内辺で合着した四角形の2個の袋果となり,内辺以外の3辺で裂開する。種子には翼がある。

 キンポウゲ科に分類されていたが,おしべが内より外へ遠心的に発生すること,花床維管束枝分れして増数し,多数のおしべに入る維管束となること,袋果は背腹両縫線で裂開すること,染色体数は2n=20で,基本数は10と考えられること,クマリン骨格をもつ物質を多量に含むことなど,キンポウゲ科と一致しない特徴が多く,独立してシラネアオイ科がもうけられた。この科はオトギリソウ科ケシ科類縁があるように考えられる。観賞用の山草として栽培されることがある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「シラネアオイ」の意味・わかりやすい解説

シラネアオイ
しらねあおい / 白根葵
[学] Glaucidium palmatum Sieb. et Zucc.

シラネアオイ科(APG分類:キンポウゲ科)の多年草。1属1種のみからなる、代表的な日本の特産植物である。地下茎は太く横にはう。茎は高さ20~50センチメートル、基部には鱗片(りんぺん)状に退化した葉がある。葉は円腎(えんじん)形で、5~11中裂し、先は鋭くとがる。5~8月、淡紫色で径約10センチメートルの大きな花を開く。花弁はなく、花弁状の萼片(がくへん)が4枚ある。果実は扁平(へんぺい)でやや四角形の袋果で、広い翼をもつ種子が多数ある。山地の林縁や草原に生え、中部地方以北の本州から北海道の日本海側多雪地に分布する。日光の白根山に多くみられ、花がアオイの花に似ているので、この名がある。本種は果実の裂開の仕方や雄しべのでき方などに他のキンポウゲ科の植物ではみられない特徴があり、シラネアオイ科として独立させる考え方もあった。

[門田裕一 2020年3月18日]

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百科事典マイペディア 「シラネアオイ」の意味・わかりやすい解説

シラネアオイ

北海道,本州中北部の深山の林内にはえるシラネアオイ科の多年草。茎は高さ15〜50cm,やや太く,上方に2枚の葉がつく。葉は掌状に中裂し,幅10〜20cm。花は初夏,茎頂に1個つき,径5〜10cm,淡青紫色の萼片が4枚あって美しい。花弁はない。名は花がタチアオイに似て,日光白根山に多く産することに由来する。日本の特産科。

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