山岳地域において,積雪につごうのよい谷地形のなかに局地的に多量に降り積もった雪が,夏に遅くまで溶けきらずに残ったものをさす。氷期に氷河の浸食作用でできたカールや氷食谷のなかに生じることが多い。雪渓のできる位置と成因によって,吹きだまり型雪渓となだれ型雪渓に分けられる。吹きだまり型雪渓は,稜線の風下側に雪が吹きだまってできたもので,日本アルプスなど冬に西から季節風が吹くところでは,稜線の東側にこの型の雪渓が発達する(北アルプス劔沢の〈はまぐり雪〉雪渓,立山の内蔵助(くらのすけ)雪渓など)。一方,周囲を急な谷壁斜面に囲まれた谷底では,なだれによって谷底に多量の積雪がもたらされ,なだれ型雪渓をつくる。白馬大雪渓,劔沢雪渓など,大きな雪渓にはこの型のものが多い。夏にも溶けきらずに越年する雪渓を越年性(多年性)雪渓(万年雪)といい,日本アルプスでは10~20年間も越年する雪渓が知られている。越年性雪渓では,積雪層が融解と凍結を繰り返すうちに氷化して密度0.5g/cm3以上の固い雪(フィルンfirn)となる。雪渓がそのまま成長して厚く,大きくなれば氷河となるが,氷河が流動するのに対して雪渓は流動しない点で両者は異なっている。しかし氷化した雪渓は自重で斜面上を滑ることが知られている。雪渓が分布するのは,日本アルプスのように冬に積雪がきわめて多く,しかも夏が暑いために積雪が氷河にまで成長しえない場所である。雪渓の周囲では植物の生育期間が短すぎるので植物の生えない裸地となり,凍結・融解の繰返しによって壊された岩石が融雪水などの働きで除去されるため,雪食作用とよばれる浸食を生じる。雪渓はまた雪田ともよばれ,比較的早く雪の消えるところでは,融雪水の影響で常に湿った場所に,雪田植生とよばれる独特の植物群落を生じる。
執筆者:小野 有五
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残雪が融(と)けることなく、夏の遅い時期まで山地の谷間や凹地を埋めて残っているもの。尾根の風下(かざしも)側に雪が吹きだまってできる「吹きだまり型雪渓」と、急な斜面から雪崩(なだれ)によって運ばれた雪が谷底にたまってできる「雪崩型雪渓」に分けられる。いずれの場合も、局地的に周囲より多量の雪が積もったために生じたものである。夏にも融けきらずに越年する雪渓を「越年性雪渓」(または「多年性雪渓」)というが、北アルプスでは10~20年も越年する剱岳(つるぎだけ)(富山県)の剱沢雪渓、白馬(しろうま)岳(長野・富山県)の白馬大雪渓、立山(富山県)の内蔵助(くらのすけ)雪渓などの例が知られる。越年雪渓では積雪が融解と凍結を繰り返すことによって氷化し、密度が立方センチメートル当り0.5グラム以上のフィルンfirnとよばれる固い雪となる。
雪渓がさらに成長して、厚さや広がりを増せば流動する氷河となるが、雪渓には氷河のような流動はみられない。しかし、氷化した雪渓は自体の重さで斜面上を滑ることがある。雪渓は北アルプスや東北地方の日本海側山地など、雪がきわめて多く、しかも夏が暑いために氷河にまでは至らない山岳でみられる。日本のこれらの山岳は、世界的にみても雪渓がきわめて多い山岳である。周りが比較的平らな凹地にできた雪渓は雪田(せつでん)とよばれることが多い。雪渓や雪田の周辺部では、積雪の存在によって植物の生育期間が短縮されるので裸地ができ、そこでは雪融け水が凍結、融解を繰り返すことによって岩石が壊され、雪田のある凹地はしだいに拡大される。これが雪食作用である。これに対して、雪が比較的早く消える所では、雪融け水によってつねに湿った環境となり、イワイチョウ、コバイケイソウなど雪田植生とよばれる高山植物の群落がつくられたり、泥炭地が形成されたりする。
[小野有五]
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…とくに雪どけ時に生じる〈底雪崩〉では,こうした作用が顕著である。また雪渓では,積雪の密度が大きくなって,氷に近い雪(フィルンfirn)になるので,積雪層が斜面上をゆっくりと滑り落ちる際,底面の岩盤に浅いすり傷をつけることも知られている。これらも雪食作用である。…
…したがって海水が凍ってできる海氷や,陸水が凍ってできる湖氷,河氷,凍土などを除いた地表の氷を指す。積雪は融解・凍結のある所では比較的速く(1~数年程度),また融解の起こらない寒い所ではゆっくりと(数百年程度),したがって雪面から数十m下で,フィルンFirn(ドイツ語)と呼ばれる状態を経て氷に変わる。これは氷の結晶の成長によるもので,それに伴って比重が増す。…
…こうした雪は,雪の結晶と結晶の間にある空隙がつながっていて完全な氷になっておらず,雪と氷の中間的な性質をもっている。これをフィルンfirnまたはネベnévéという。以前はフィルンのことを万年雪と呼んだこともあるが,現在ではフィルンを積雪の物理的性質を表す名称とし,万年雪はフィルンからなる越年性雪渓を指すというふうに両者を区別して用いるのがよいとされている。…
…雪がとけていく際に,くぼ地になったところなどで,吹きだまりの雪がいつまでも残るところがある。そのような場所を雪田という。いつまでも雪が残るということは,植物にいろいろの影響を与える。植物が春になって芽を伸ばし葉を広げる時期と雪との相関からいうと,積雪は厳しい寒気や強風から植物を保護する効果が大きいことが知られており,雪田で雪の下に埋もれて芽の準備を整えていた植物は雪がとけ去ると一斉に展開を始めて植生を形成する。…
…夏の融雪期にとけきらずに残る越年性の氷雪の広がりを指す。山地では雪渓や雪田をつくるので,現在では〈越年性(多年性)雪渓〉と呼ばれることが多い。実際には1年でできるのに,それを“万年”雪と呼ぶのは適切でないからである。…
※「雪渓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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