改訂新版 世界大百科事典 の解説
デバイ=ヒュッケルの理論 (デバイヒュッケルのりろん)
Debye-Hückel's theory
1923年にドイツのP.J.W.デバイとヒュッケルErich Armand Arthur Joseph Hückel(1896-1980)が提出した理論で,強電解質溶液論の基礎として重要なものである。電解質溶液の蒸気圧,浸透圧,電気伝導率などの性質を説明するために提出されたアレニウスの電離説では,すべての電解質が溶液中では電離平衡の状態にあると考えた。この理論は,弱電解質では成功したが,強電解質の性質を説明することはできなかった。事実,塩化カリウムのような結晶はイオン格子構造のものであるから,それを水のような溶媒に溶かせば100%イオンに解離すると考えるほうが自然である。そこで,デバイらは,溶液中で強電解質は完全に電離していると仮定し,イオン相互の間に静電的なクーロン力が働くことを考慮して,それがイオンの熱力学的な性質や移動速度などにどのような影響を及ぼすかを定量的に検討した。この理論に従って個々のイオンのまわりの他のイオンの分布を計算すると,個々のイオンは,全体としてそれと反対の電荷をもつイオンの集団,いわゆるイオン雰囲気ionic atmosphereでとり囲まれているような挙動をすることがわかる。
この理論によると,たとえば,溶液中における強電解質の浸透係数g,活動度係数f,モル導電率Λがそれぞれ次式で与えられる。
ここで,cは電解質のモル濃度,Λ∞は無限希釈におけるモル導電率,A′,A″およびSは,溶液の温度,誘電率,粘性率,電解質の電荷型などで決まる理論係数である。これらの理論式は,従来知られていた実験式とよく一致するが,理論に含まれている仮定や近似のために,ごく希薄な溶液にしか適用できない。
執筆者:玉虫 伶太
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報