イオン(英語表記)ion

翻訳|ion

精選版 日本国語大辞典 「イオン」の意味・読み・例文・類語

イオン

〘名〙 (Ion・ion) 正または負に荷電した原子や原子団。電気的に中性の原子や分子が電子を失い、または得ることによってその電子の数だけの電気量(イオン価)を帯び、それぞれ陽イオン陰イオンとなる。電解質を溶媒にとかすと陰陽両イオンに、気体分子を放射線やX線等で照射すると陽イオンとなる。気体放電などによっても陽イオンが発生する。〔物理学術語和英仏独対訳字書(1888)〕

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デジタル大辞泉 「イオン」の意味・読み・例文・類語

イオン(〈ドイツ〉Ion)

ギリシャ語の移動する意から》電気を帯びた原子または原子団。正の電気を帯びたものを陽イオン、負の電気を帯びたものを陰イオンという。
[類語]粒子分子原子原子核原子団アトム素粒子電子陰電子陽電子陽子中間子中性子光子エレクトロンプロトンニュートロンニュートリノ

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改訂新版 世界大百科事典 「イオン」の意味・わかりやすい解説

イオン
ion

中性の原子または原子団が1個または数個の電子を失うか,あるいは1個または数個の電子を得て生ずる粒子をいう。たとえばナトリウムイオンNa⁺,塩化物イオンCl⁻,塩素酸イオンClO3⁻などがそれである。ある種の物質(固体電解質)を加熱して融解し,その電気抵抗を測定してみると,その融解液の電気抵抗は小さく,すなわち電気を通す性質をもっていることがわかる。さらにこの種の物質について,その構成要素を調べてみると,その最小単位の大きさは,原子や分子の大きさと同程度(1オングストロームÅ=10⁻10m程度)であるが,電気的に中性の原子や分子とは異なり,正または負の電荷をもっていることがわかる。歴史的にさかのぼれば,電解質溶液に電流を流して電気分解を行うときに,アノードanode(陽極)へ向かって行く粒子とカソードcathode(陰極)へ向かって行く粒子があることから,M.ファラデーが〈行く〉という意味のギリシア語にちなみ,その粒子をイオンと名づけ,そしてカソードへ向かう粒子をカチオンcation(陽イオン),アノードへ向かう粒子をアニオンanion(陰イオン)と呼んだ。イオンの帯電の原因が1個または数個の電子の授受によることからわかるように,イオンがもつ電荷の量は電気素量e(=1.6021892×10⁻19C)の整数(正または負)倍に等しい。この整数の値をイオン価valency,イオンの価数,イオンの電価などといい,イオンを表すさいには,このイオン価と電荷の符号を化学式の右肩に付してH⁺,Ca2⁺(またはCa⁺⁺),SO42⁻(またはSO4⁻⁻)などのように書く。H⁺は1価の陽イオン,Ca2⁺は2価の陽イオン,SO42⁻は2価の陰イオンである。

 イオンは,電解質の溶解液(溶融塩)や溶液の中で生成するばかりでなく,気体放電や気体の放射線照射,分子の中での電子移動などによっても生成する。このようなイオン生成現象をイオン化あるいは電離という。とくに解離あるいは放射線によってイオンが生じる場合は電離と呼ぶのがふつうである。

ふつうの状態(常温,常圧)でイオンが存在しやすいのは,水溶液のような極性液体中においてである。気体では高温,低圧の状態でのみ,ある程度のイオンが存在しうるにすぎない。また溶融塩も,高温にして融解状態を保つことによって初めてイオンの特性(たとえば電気分解など)が確かめられる。水溶液中においてイオンが容易に存在しうるのは,イオンと溶媒である水との相互作用,すなわち水和と呼ばれる溶媒和現象による。イオンは帯電しているために,異符号のイオンどうしが強く引き合い,また同符号のイオンどうしは強く反発し合うはずである。ところが水溶液中では,水和のためにイオン間の静電的な相互作用が弱められており,イオンとして存在しやすくなっているのである。
イオン化エネルギー →イオン化傾向
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イオン」の意味・わかりやすい解説

イオン

スーパー・チェーンストア大手のイオンを傘下にもつ持株会社。1758年創業の篠原屋が前身。1887年屋号を岡田屋に改称,1926年株式会社に改組し岡田屋呉服店として設立,1959年岡田屋と改称。1969年業務提携先と共同出資した仕入れ子会社ジャスコを設立。1970年ジャスコほか 3社が合併し,社名をジャスコに変更した。1972年以降中小スーパーマーケットを次々に合併してチェーン拡大をはかる。1980年,コンビニエンスストアミニストップを設立。1989年グループの名称をイオングループとし,2001年に社名をイオンと改める。2000年には経営破綻したヤオハンジャパン(社名をヤオハンに,2002マックスバリュ東海に変更)を,2003年には同じく経営破綻したマイカルを傘下に置いた。2005年フランスのカルフールが日本で展開したカルフール・ジャパンを子会社化し,社名をイオンマルシェに変更した。2008年,全事業をイオンリテールに承継させ純粋持株会社に移行。2013年ダイエー,ピーコックストア(→大丸)を,2015年マルエツを子会社とした。

イオン
ion

中性の原子,原子団または分子が1個または数個の電子を失うか,逆に過剰の電子を得て電荷をもつ状態になったもの。電子を失ったものは正電荷を帯びて陽イオン (カチオン) となり,電子を得たものは負電荷を帯びて陰イオン (アニオン) となる。その電気量は電気素量の整数倍で,その倍数をイオンの電荷数という。電荷数は周期表における元素の族と関係している。たとえばアルカリ金属は電荷数+1のイオンに,ハロゲンは電荷数-1のイオンとなる。イオンは電解質溶液中やイオン結晶の中に存在する。気体の場合は,放電やX線,電子,陽子などの放射線照射によって生成する。イオンは元素記号の右肩にイオン価と電荷の符号をつけ,Na+ ,Fe3+ ,または Cl- のように表現する。

イオン
Iōn

ギリシアエウリピデスの悲劇。アポロン神とアテネ王女クレウサの不義の子として生れ,捨てられたイオンは,ヘルメス神に拾われてデルフォイのアポロンの神殿に仕えている。クレウサはクストスと結婚したが,子のない夫婦はデルフォイにおもむいて神託を伺う。クストスは神託を誤解してイオンが自分の結婚前の浮気の落し子であると信じて喜ぶが,クレウサはこれをねたんでイオンを殺そうとする。しかし見破られて殺されかけ神殿に避難すると,巫女が証拠の品を持って現れ,劇的な母子再会となる。このような筋書はのちに新喜劇の好んで用いる典型的な型となった。

イオン
Iōn

ギリシア神話に登場するイオニア人の呼び名の起源となった英雄。ギリシア民族の始祖ヘレンの息子の一人クストスが,テッサリアからアテネに亡命し,そこでエレクテウス王の娘クレウサと結婚してもうけた息子とされるが,別伝ではクレウサが結婚前にアポロンの種によって生んだ子で,クレウサに捨て子にされたところをヘルメスによってデルフォイに運ばれ,アポロン神殿の神官たちに育てられ,参詣に来たクストスが,神託の命令に従い養子にしたともいわれる。エレクテウスの死後,その跡を継いでアテネ王となり,住民を4つの部族に分けるなどして,国制を整備したとされる。

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百科事典マイペディア 「イオン」の意味・わかりやすい解説

イオン

正または負に帯電した原子または原子団。正に帯電したイオンを陽イオン,負に帯電したイオンを陰イオンという。たとえば塩化ナトリウムNaClや硫酸アンモニウム(NH42SO4の結晶は,それぞれ陽イオンNa(+/),NH4(+/)および陰イオンCl(-/),SO42(-/)よりなる。ファラデーが電解に際して電極に向かって移動するものがあることを見いだし,ギリシア語のion(行くもの)にちなんで命名。イオンは電子の授受によって生ずるもので,その存在は電解質溶液に限らず,気体に放射線を照射した時にも生ずる。大気中のイオンについては空中電気を参照。→電離
→関連項目陰イオンモル陽イオン

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知恵蔵 「イオン」の解説

イオン

電荷を持つ原子、または分子。電気的に中性の状態の原子や分子が、1個または複数の電子を失うか取り込んで生じる。電子を失って正電荷を帯びたものを陽イオンまたはカチオン、取り込んで負電荷を帯びたものを陰イオンまたはアニオン、電子の授受を経てイオンになることをイオン化または電離という。イオンの持つ電気量は、電子、陽子などの荷電素粒子1個の持つ電荷の整数倍に等しく、この倍数あるいはその絶対値をイオン価、または価数と呼ぶ。イオンを表すには、対応する中性原子や分子の化学式の右肩にイオン価(1の場合省略)と正負の符号を付け、Li^+、F^-などと書く。陽イオンの形成に必要なエネルギーをイオン化エネルギー、陰イオンの形成の際に放出されるエネルギーを電子親和力という。電子殻が閉殻になっていない原子では、電子の過不足分を補って閉殻の状態となって安定化する傾向がある。そのため、最外殻に1個の電子を持つ周期表の1族のアルカリ金属は1価、17族のハロゲンはマイナス1価になりやすい。例えば、食塩の結晶はナトリウムイオンと塩化物イオンからできている。溶媒に塩化ナトリウムなどの電解質を溶かすと、電離により正と負のイオンを生じて電気伝導性を持つようになり、生じたイオンは溶媒分子と相互作用をして溶媒和イオンと呼ばれる状態になることが多い。

(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2007年)

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化学辞典 第2版 「イオン」の解説

イオン
イオン
ion

荷電した原子または原子団をイオンといい,正または負に帯電したものをそれぞれ陽イオン(あるいはカチオン),陰イオン(あるいはアニオン)という.M. Faraday(ファラデー)が電解質溶液を用いて電解を行ったとき,溶液中に電場の存在下で電極に向かって移動するものがあることを見いだし,ギリシア語の“行く”という意味にちなんでイオンと名づけた.また,電解質溶液の場合に限らず,気体分子が電子を失ったり,得たりして,正負の電気を帯びた場合も,それをイオンという.中性の原子あるいは分子がイオンになることをイオン化または電離という.イオンのもつ電気量は電気素量の整数倍に等しく,この倍数がイオン価である.イオンを表示するには,一価の陽イオンならば原子記号の肩に+,一価の陰イオンならば-をつけ,二価以上のときには Cu2+,Fe3+,PO43-などのように表す.

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日本の企業がわかる事典2014-2015 「イオン」の解説

イオン

正式社名「イオン株式会社」。英文社名「AEON CO., LTD.」。小売業。宝暦8年(1758)前身の「篠原屋」創業。大正15年(1926)「株式会社岡田屋呉服店」設立。昭和45年(1970)「ジャスコ株式会社」に改称。平成13年(2001)現在の社名に変更。本社は千葉市美浜区中瀬。M&Aで成長した総合スーパーの最大手。銀行業にも進出。東京証券取引所第1部上場。証券コード8267。

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デジタル大辞泉プラス 「イオン」の解説

イオン

イオンリテール株式会社が展開するスーパーマーケットのチェーン。全国各地に出店している。前身の岡田屋は1758年創業。1969年よりスーパーマーケット「ジャスコ」として展開していたが、2011年より現名称に変更。

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栄養・生化学辞典 「イオン」の解説

イオン

 電荷をもった(電子を受け取ったり放出したりした)原子や原子団.Na, OH, CH3COOなど.

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