翻訳|ion
中性の原子または原子団が1個または数個の電子を失うか,あるいは1個または数個の電子を得て生ずる粒子をいう。たとえばナトリウムイオンNa⁺,塩化物イオンCl⁻,塩素酸イオンClO3⁻などがそれである。ある種の物質(固体電解質)を加熱して融解し,その電気抵抗を測定してみると,その融解液の電気抵抗は小さく,すなわち電気を通す性質をもっていることがわかる。さらにこの種の物質について,その構成要素を調べてみると,その最小単位の大きさは,原子や分子の大きさと同程度(1オングストロームÅ=10⁻10m程度)であるが,電気的に中性の原子や分子とは異なり,正または負の電荷をもっていることがわかる。歴史的にさかのぼれば,電解質溶液に電流を流して電気分解を行うときに,アノードanode(陽極)へ向かって行く粒子とカソードcathode(陰極)へ向かって行く粒子があることから,M.ファラデーが〈行く〉という意味のギリシア語にちなみ,その粒子をイオンと名づけ,そしてカソードへ向かう粒子をカチオンcation(陽イオン),アノードへ向かう粒子をアニオンanion(陰イオン)と呼んだ。イオンの帯電の原因が1個または数個の電子の授受によることからわかるように,イオンがもつ電荷の量は電気素量e(=1.6021892×10⁻19C)の整数(正または負)倍に等しい。この整数の値をイオン価valency,イオンの価数,イオンの電価などといい,イオンを表すさいには,このイオン価と電荷の符号を化学式の右肩に付してH⁺,Ca2⁺(またはCa⁺⁺),SO42⁻(またはSO4⁻⁻)などのように書く。H⁺は1価の陽イオン,Ca2⁺は2価の陽イオン,SO42⁻は2価の陰イオンである。
イオンは,電解質の溶解液(溶融塩)や溶液の中で生成するばかりでなく,気体放電や気体の放射線照射,分子の中での電子移動などによっても生成する。このようなイオン生成現象をイオン化あるいは電離という。とくに解離あるいは放射線によってイオンが生じる場合は電離と呼ぶのがふつうである。
ふつうの状態(常温,常圧)でイオンが存在しやすいのは,水溶液のような極性液体中においてである。気体では高温,低圧の状態でのみ,ある程度のイオンが存在しうるにすぎない。また溶融塩も,高温にして融解状態を保つことによって初めてイオンの特性(たとえば電気分解など)が確かめられる。水溶液中においてイオンが容易に存在しうるのは,イオンと溶媒である水との相互作用,すなわち水和と呼ばれる溶媒和現象による。イオンは帯電しているために,異符号のイオンどうしが強く引き合い,また同符号のイオンどうしは強く反発し合うはずである。ところが水溶液中では,水和のためにイオン間の静電的な相互作用が弱められており,イオンとして存在しやすくなっているのである。
→イオン化エネルギー →イオン化傾向
執筆者:橋谷 卓成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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(市村禎二郎 東京工業大学教授 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
荷電した原子または原子団をイオンといい,正または負に帯電したものをそれぞれ陽イオン(あるいはカチオン),陰イオン(あるいはアニオン)という.M. Faraday(ファラデー)が電解質溶液を用いて電解を行ったとき,溶液中に電場の存在下で電極に向かって移動するものがあることを見いだし,ギリシア語の“行く”という意味にちなんでイオンと名づけた.また,電解質溶液の場合に限らず,気体分子が電子を失ったり,得たりして,正負の電気を帯びた場合も,それをイオンという.中性の原子あるいは分子がイオンになることをイオン化または電離という.イオンのもつ電気量は電気素量の整数倍に等しく,この倍数がイオン価である.イオンを表示するには,一価の陽イオンならば原子記号の肩に+,一価の陰イオンならば-をつけ,二価以上のときには Cu2+,Fe3+,PO43-などのように表す.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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