化膿性脊椎炎(読み)かのうせいせきついえん(英語表記)Pyogenic spondylitis

六訂版 家庭医学大全科 「化膿性脊椎炎」の解説

化膿性脊椎炎
かのうせいせきついえん
Pyogenic spondylitis
(感染症)

どんな感染症か

 前項で述べた化膿性骨髄炎のひとつで、脊椎背骨)に細菌が感染して発症する病気です。細菌が遠位部から血液やリンパ液を介して脊椎に運ばれたり、脊椎に隣接する臓器や組織からの感染の波及などによって発症します。

 脊柱(せきちゅう)静脈は、脊柱に沿って周囲に複雑な血管網を形成しています。また、この血管網は、身体各部の静脈系や門脈(もんみゃく)系とも連絡しています。しかし、これらの静脈には逆流を防ぐ弁がないため、血液の逆流や、逆流に伴う転移性感染を起こしやすいのです。

 主な原因菌は、黄色ブドウ球菌緑膿菌(りょくのうきん)などです。危険因子としては、糖尿病、血管内カテーテルや尿道カテーテルの留置などがあります。また、汚染された注射器を使用する薬物乱用者の化膿性骨髄炎は、脊椎に生じやすく、高齢者の血行性の化膿性骨髄炎は、胸椎(きょうつい)腰椎(ようつい)が主要な感染部位になります。

 衰弱した高齢者の泌尿生殖器感染では、化膿性脊椎炎を起こすことが知られています。このようなケースでは通常、グラム陰性菌が原因になります。

症状の現れ方

 発熱と、背部痛や腰痛増強がみられ、急に膿汁がたまります。脊髄を包む硬膜(こうまく)が外部から圧迫されている場合は、神経が圧迫され、知覚障害や運動障害が起こります。

検査と診断

 脊椎炎が疑われたら、臨床検査(血液検査、CRP)、X線CTMRI検査などで診断を行います。膿汁がたまっている場合は穿刺(せんし)(針を刺す)して採取し、細菌培養を行います。

治療の方法

 原因菌を決定し、適切な抗菌薬を投与します。また、原因となる血管内カテーテルや尿管カテーテルを除去します。神経の圧迫症状が認められる場合には、たまっている膿汁を排除します。

古田 格

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「化膿性脊椎炎」の解説

かのうせいせきついえん【化膿性脊椎炎 Pyogenic Spondylitis】

[どんな病気か]
 背骨(せぼね)におこる化膿性骨髄炎(かのうせいこつずいえん)(「化膿性骨髄炎」)です。急激に始まる激しい腰や背中の痛みと、発熱が特徴です。患部をたたくと、非常に痛みます。最近は、ゆるやかに発病するケースも増えています。
 扁桃炎(へんとうえん)などの化膿した病巣から、細菌が血液の流れにのって(血行性に)、脊椎に侵入する場合と、膀胱炎(ぼうこうえん)など、泌尿生殖器(ひにょうせいしょくき)系の炎症が脊椎に広がって発病する場合とがあります。
[検査と診断]
 X線写真では、骨の破壊が認められます。骨シンチグラフィー、CT、MRIなどの画像検査を行なうと、病巣の範囲がよりはっきりとわかります。
 最終的な確定診断は、血液を培養して、炎症をおこしている細菌を検出する、あるいは、穿刺(せんし)で病巣の組織をとり、顕微鏡で調べて細菌を検出するといった病理組織学的検査によって決まります。
 まぎらわしい病気としては、脊椎カリエスや、骨に転移したがんなどがあります。
[治療]
 保存的治療が原則で、手術は行ないません。
 患部の安静のため、ギプスベッドに寝たり、抗生物質を点滴で使用したりします。
 高気圧酸素療法(「化膿性骨髄炎」の治療)も有効です。
 こうした治療で効果がみられない場合は、手術して、病巣の掻爬(そうは)、骨移植が行なわれます。

出典 小学館家庭医学館について 情報