宗教地理学(読み)しゅうきょうちりがく(英語表記)geography of religions

日本大百科全書(ニッポニカ) 「宗教地理学」の意味・わかりやすい解説

宗教地理学
しゅうきょうちりがく
geography of religions

宗教的原則から地上の空間秩序を考えた宗教教理上の地理学religious geographyや、伝道活動の資料である宗教分布図などを媒体として、歴史的に発展してきた新しい学問分野である。宗教とそれが行われている土地(自然的・社会的環境)との相互関係、宗教体系どうしの空間的な相互関係を調査し資料化し、理論構成を計るのが、今日の宗教地理学の目的であるが、これまでの成果を主要な研究課題にまとめると、次のように整理することができよう。

(1)宗教に影響を与えたエコロジカル(生態学的)な環境 ユダヤ教にみられる牧畜および農耕に関連した祭式、牧畜・狩猟一神教、農耕と多神教との関係性を論じた研究など、多くの研究業績がみられる。

(2)土地造りにおける宗教の影響 食物タブーに基づく動植物の集散状況、宗教に由来する土地の呼称、宗教的建造物(ピラミッド教会)、宗教的造地などが問題に取り上げられる。

(3)宗教と経済活動 教義に基づく職業規制のジャイナ教徒、儀礼用ワインの産業化、経済活動を支える宗教倫理の研究。

(4)宗教分布 数量的な研究にとどまらず、宗教体系相互間の関係も扱われ、それらの平和的共存・競争関係、排斥関係に分けて考える。

(5)生活様式における宗教的要素 住居、食物、衣服、生活慣習における宗教的要素をみる。

(6)宗教組織と政治組織 国家と宗教集団、宗教集団と政党、宗教と政治の関係分離をテーマにする。

 なお、(3)と(6)は宗教社会学との関連が深い研究範囲であって、相互に影響を与え合って、研究が進みつつある。

[生野善應]

『ソーファー著、徳久球雄・久保田圭伍・生野善應訳『宗教地理学』(1971・大明堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「宗教地理学」の意味・わかりやすい解説

宗教地理学
しゅうきょうちりがく
geography of religion

信仰崇拝の一体系である宗教を地理学的に考察する分野。人文地理学の一分野であるが,日本では,まだ未開拓の領域である。 D.ソーファーの『宗教地理学』 (1967) では研究対象として,宗教体系と制度の発達と,環境的背景の関係,宗教体系と制度による環境の変容,宗教体系と制度の地域組織化の過程,諸宗教の地理的分布と普及の動態などをあげている。石田英一郎が指摘した西南アジア乾燥地域に成立したユダヤ教,キリスト教,イスラム教の一神教群と,南アジア,東アジアの湿潤地域に成立したヒンドゥー教や,道教の多神教群の対比は示唆に富む。

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