木材糖化(読み)モクザイトウカ

化学辞典 第2版 「木材糖化」の解説

木材糖化
モクザイトウカ
wood saccharification

木材中のセルロースを酸または酵素で加水分解して糖類などを生産する方法で,それぞれ酸糖化,酵素糖化という.歴史的には酸糖化法がおもに検討されてきたが,酵素糖化に使用するセルラーゼの性能の向上によって,酵素糖化法に対する期待が高まっている.なお,酸糖化では原料木材を直接処理することが可能であるが,酵素糖化では酵素の反応性を高めるために,あらかじめある程度まで脱リグニンを進めておくことが必要となる.糖化によって得られる糖類から発酵によって得られるエタノールは,化石資源に一部代替できるエネルギー資源として期待されている.酸糖化法には,濃硫酸あるいは濃塩酸を使用する濃酸法と,希硫酸を使用する希酸法とがある.濃硫酸法では,木材をあらかじめ希硫酸で加熱処理してヘミセルロースをおもに2-フルアルデヒドとして分離抽出したのち,残分を乾燥し,濃度約75% の濃硫酸と混和したのち,硫酸濃度7% 程度まで希釈して加熱処理する.この処理によってセルロースはおもにグルコースに変換される.濃硫酸法としてジョルダニー法,北海道法が,濃塩酸法として新ライナウ法,塩化水素を使用するエラン法などがある.希硫酸を使用する希酸法では,かつては木材くず層に2% 程度の希硫酸を流下させ,150~180 ℃ で数時間加熱処理するいわゆるパーコレーション法がおもに検討されたが,最近では,原料および酸が高温の連続反応槽中を流動中にすみやかに糖化する,いわゆるフロープロセスに注目が集まっている.この方法では処理温度をより高く設定することで,10分程度で糖化を完了することもできる.木材の爆砕前処理は,糖化効率を高めるうえで有効である.酵素糖化法に関しては,従来,糸状菌Trichoderma virideが産生するセルラーゼが高活性をもつとして知られているが,さらに高い酵素活性を有するセルラーゼの探索が続けられている.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「木材糖化」の意味・わかりやすい解説

木材糖化 (もくざいとうか)

木材加水分解ともいう。木材の7~8割を占める多糖(セルロースとヘミセルロース)を単糖に分解する操作をさす。得られる単糖はブドウ糖,キシロースなどで水に溶ける。木材の2~3割を占めるリグニンは加水分解されないままで残る。木材糖化の難点はブドウ糖が純粋に得にくいことにある。酸による加水分解工業は第2次大戦中世界各国で行われたが,今は旧ソ連のみで実用化されている。近時酵素による加水分解が試みられているが,酸によるものと比べて温和な条件で分解が進み,生成した単糖が分解しないという利点がある。しかし酵素法は現状では著しく高価である。木材加水分解は従来目的が糖の生産に限定されていた。しかし近時,資源の枯渇が叫ばれて脚光をあび,研究は活発になり,生産対象物も拡大し,糖の発酵生産物であるアルコール,酸,溶剤,飼料酵母,エチレンなどをも含むようになった。さらには残渣であるリグニンも生産目的物の一つに考えられることも多くなっている。なお加水分解の前処理により木材のヘミセルロースの一部はフルフラールとなり,ナイロン,合成ゴムなどの原料になる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「木材糖化」の意味・わかりやすい解説

木材糖化
もくざいとうか
saccharification of wood

木材中のセルロースとヘミセルロースを分解して単糖を得る方法で、酸糖化法のほかに酵素糖化法がある。

 これまでの実用化プロセスは酸分解による糖化が主で、装置の腐食等の点から希硫酸を使う方法が主流となった。実用化の例としては1910年代に商業プラントがアメリカ、サウス・カロライナ州で運転され、31年にはショーラー法が商業化され、40年ころには最盛を極めたが、第二次世界大戦後は閉鎖されている。旧ソ連に残っていたアメリカ生まれのマジソン法は木材チップを150℃、硫酸濃度0.5%で加水分解する方法で、フルフラール、メタノール(メチルアルコール)を蒸留して除き石灰で中和したのち、固型分を除き3~6%の糖液を得る(転化率は50~70%)。最近は酵素法による糖化が注目されている。この糖液をアルコール発酵法によりアルコールへ変換、燃料に利用するなどの方向はバイオマス利用の一例となろう。

[野村正勝]

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