菌学(読み)きんがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「菌学」の意味・わかりやすい解説

菌学
きんがく

菌類対象とする生物学の一部門であるが、「菌類」の内容が問題となる。まず目につきやすいキノコを生ずるものについては、もっとも古くから形態的に分類する研究が行われてきた。顕微鏡が発明されて微小なカビ仲間が知られるようになると、カビもキノコも体が菌糸であるところから、これらは同類であると考えられた。さらにムラサキホコリカビのような変形菌類も、菌糸をもたないがカビの仲間入りをした。こうして菌学はカビ・キノコの分類学となったが、これは、長く植物分類学の一部とされてきた。

 カビよりも微小な単細胞体である細菌類に関しては、医学、農学関係においてそれぞれの目的に沿った細菌学として発達し、病原細菌学土壌細菌学などとなった。細菌類は形態的特徴が乏しく、病原性、生理学的あるいは遺伝学的、さらに分子生物学的な研究へと、菌学とは別個の発展をした背景のもとで、学校教育においても細菌類と菌類とは区別して教えられてきたが、この二つは菌界を構成する二大生物群で、前者原核菌類後者真核菌類である。菌学は、菌界を構成する菌類を対象とし、植物学動物学と並ぶものである。菌学の分科には、細菌学、分類学、生理学、生化学、遺伝学、生態学などがある。菌類を対象とする学問の場合、菌類○○学を用いず、微生物○○学という場合が多いが、厳密にいえば微生物は菌類の代名詞ではない。

[寺川博典]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「菌学」の意味・わかりやすい解説

菌学
きんがく
mycology

菌類を対象とする生物学の一分科。菌類は過去長い間,主として形態学上の根拠から植物のなかに入れられていたので,菌学は植物分類学の一分科のごとく考えられたが,今日では菌類はほかの植物とは本質的に異なるところがあり,むしろ,栄養法などは動物に近いところもあることが主張され,植物から切り離して,動物界に対して菌類界という第三界を立てることが提案されている。それによれば,菌学は植物学,動物学と並ぶ分科ともいうべきものになる。このような場合,菌学のなかには菌類分類学,菌類形態学,菌類生理学,菌類生態学などの他の小分科が成立する。

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世界大百科事典(旧版)内の菌学の言及

【菌類】より

…19世紀後半に入ると,細胞学,遺伝学,生理学の分野で研究材料として扱われ,とくに植物病理学,応用微生物学,皮膚科学の分野で研究成果が次々と得られ,発展してきた。このころには菌類を研究する学問分野として菌学mycologyが独立してきたが,分類学の面では依然として下等植物の特殊な一群と解釈されていた。R.H.ホイッタカーの5界説は,はじめて菌類を動物および植物から切り離したもので反論も多かったが,アインスワーズG.C.Ainsworthは《菌類辞典Dictionary of Fungi》でこの説を採用し(1971,83),その後,広く用いられるようになっている。…

【植物学】より

…生物学を生物科学といいかえるように,植物科学plant scienceということもある。生物界を動物界,植物界と二大別するのに対して,原核生物,動物,植物,菌類に四大別する考え方もあるが,菌学mycologyを植物学と別に取り扱うこともある。対象とする植物群によって,微生物学microbiology,藻類学phycology,地衣学lichenology,蘚苔類学bryology,シダ植物学pteridologyなどが区別されることがあるが,このような区分は種子植物の諸現象を対象として発達してきた植物学の枠に合わない分野を対象群ごとに解析し総合化しようとする意図にもとづくものであり,対象群の特異性を明らかにすることによって生命現象の本質の解明が期待される課題もある。…

※「菌学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」