カビ(英語表記)mo(u)ld
mo(u)ld fungi

改訂新版 世界大百科事典 「カビ」の意味・わかりやすい解説

カビ (黴)
mo(u)ld
mo(u)ld fungi

外見的な形態によって一群菌類に対して与えられた一般名称。キノコイーストという名称と同様,分類学的な意味はもたない。日本の梅雨ごろから秋にかけての湿度の高いとき,いわゆる〈かびる〉といった現象を起こす菌類(主として糸状菌)を指し,体制の主体は糸状の菌糸細胞であり,そこで形成される各種の胞子もふくまれる。キノコとの差も明りょうなものではなく,糸状に発育したキノコも外見からカビと称されることがある。とくに,家屋土台などに一面に生える木材腐朽性のナミダタケなどのキノコの場合は,まったくカビ状である。

 菌類は分類学上,鞭毛菌類接合菌類子囊菌類,担子菌類,不完全菌類の五つに大きく分けられるが,カビといわれるものはこの各グループの大部分に含まれている。すなわち,鞭毛菌類のミズカビ,接合菌類のケカビ,クモノスカビ,子囊菌類のアカパンカビ,不完全菌類のアオカビコウジカビなどはその例である。担子菌類には子囊菌類の一部のものとともに一般にキノコと呼ばれるものが含まれるが,サビキンクロボキンはむしろカビ状である。

 カビの色は白,赤,青,緑,黒などさまざまで,おもに胞子の色によるが,菌糸の色や産生された色素にもよる。色素のときには,アントラキノンの誘導体によることが多い。

カビは,空中水中,土壌中,海水中とあらゆるところにいる。栄養のとり方で寄生と腐生に分かれる。前者は動植物上で寄生生活をするもので,植物に生えるモチビョウキン,銹病菌,ウドンコ病菌などが含まれ,動物ではミズムシキン,タムシキンなどの病原真菌がある。その他のほとんどは腐生菌で,とくに生きた寄生の細胞を必要とせず,動植物遺体や排泄物上で生活できるものは死物寄生菌ともいわれる。なお,カビといわれる仲間で共生生活をするものはほとんどない。腐生生活をするものには,米飯・パン・餅などの食品に生えるもの,壁紙・書物・衣服・レンズ・革製品など生活用品に生えるものが最も目につきやすい。食品に生えて風味をそこなうばかりでなくカビ毒を生産したり,他の物では劣化を起こしたり,外見をそこねる。以上のカビは,むしろ有害といわれるものであるが,カビには応用微生物工業で欠くことのできない有用菌が多い。ペニシリンなどの抗生物質,ジベレリンなどの植物ホルモンそのほか生理活性物質はもはや人間生活に欠くことはできない。このほか,発酵工業,とくにアジア地域の特色である醸造工業の主要微生物にはカビが多い。酒・みそ・しょうゆはコウジカビの働きによるもので,日本人の生活にはとくに不可欠である。東南アジア諸国の醸造物にはケカビ,クモノスカビ,アカパンカビ,ベニコウジカビが重要な役をしめている。欧米で始まったチーズ製造もアオカビの力によるものである。カビの有用,有害は紙一重であり,約3万種をくだらないカビの研究調査によって有用菌の開発が進められている。

完全殺菌,カビの生育に不適な条件下におくこと(冷蔵など)があるが,カビ生育の範囲はきわめて広く,5℃でも生えるアオカビ,好んで塩蔵食品に生えるカワキコウジカビなどもあり,食品には管理と早めの処理が必要とされる。カビは一般に乾燥状態を好まないので,衣服,レンズ,革製品などは乾燥に保つことが最良であろう。防黴(ぼうばい)薬剤もあるが,人畜に対する作用も皆無ではなく,使用には厳重な注意を要する。またカビは細菌にくらべて高温に弱いので,煮沸により,また殺菌灯の紫外線により殺菌できる。薬剤を使う場合は,アルコール,ホルマリンなどが利用され,とくにボルドー液は植物病原菌の防除に利用される。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

栄養・生化学辞典 「カビ」の解説

カビ

 糸状菌のうち担子菌類を除くもの.

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