改訂新版 世界大百科事典 「アソリン」の意味・わかりやすい解説
アソリン
Azorín
生没年:1873-1967
スペインの作家。本名ルイスJosé Martínez Ruiz。アリカンテ県に生まれる。〈98年世代〉グループの中心的存在。早くからモンテーニュの著作に心酔し,その真価は簡潔な文体で〈最小限にて最大限〉の効果をめざす随筆の分野でいかんなく発揮されている。スペイン,とくにカスティリャの風景に魅せられ,歴史的事件のような大げさなものを扱わず,庶民のありふれた日常生活,ささいな事物を鋭く洞察することにより,その底に流れるスペイン精神を追求する。〈生きることは回帰することを見ること〉という永劫(えいごう)回帰の思想にもとづいて,自然との対話に生きがいを見いだした静かな人であった。とぎすまされた感覚は《ドン・キホーテの旅路》(1905),《カスティリャ》(1912)などの評論に結実している。彼の評論は古典を独自に解釈し,アソリン的古典を生み出すことにあった。小説は,叙述にいくぶんていねいすぎるきらいがある。初期の作品《意思》(1902)や《アントニオ・アソリン》(1903)は自伝的色彩の濃いものであり,《ある小哲学者の告白》(1904)は少年時代の回想である。
執筆者:志賀 一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報