デジタル大辞泉
「呼吸困難」の意味・読み・例文・類語
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こきゅう‐こんなんコキフ‥【呼吸困難】
- 〘 名詞 〙 外呼吸における肺でのガス交換が障害されて起こる症状。呼吸は浅く、せわしくなり、ついには苦悶を呈する。異物がつまったり、喘息(ぜんそく)や肺炎、胸膜炎、気胸などのときに起こる。息切れと同義に用いることもある。
- [初出の実例]「心悸・戦栗・苦悶・呼吸困難・神力虚脱して遂に斃る」(出典:七新薬(1862)一)
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呼吸困難(症候学)
概念
呼吸困難とは「呼吸をするために努力が必要な状態で,呼吸に伴い不快感を自覚する状態」である.呼吸器疾患や循環器疾患においてしばしば観察される症状であり,患者にとっては生活の質(QOL)を低下させる大きな原因となる.患者の愁訴は,「息苦しい」,「息切れする」,「息が詰まる」,「空気(酸素)が足りない」,「呼吸をするのに努力がいる」,「息が吸いにくい(吐きにくい)」などさまざまであり,生体の異常を示す警告反応ともとらえることができる.
病態生理
呼吸困難はさまざまな要因が重なり合って出現する感覚であり,その病態の解釈のためには呼吸調節機構の理解が必要である.
1)呼吸調節機構:
呼吸は化学調節系,神経調節系,行動調節系により調節されている(図2-31-1).化学調節系は,動脈血液ガス(PaO2,PaCO2,pH)の変化を末梢化学受容器および中枢化学受容野が感知し,それらの刺激が脳幹部の呼吸中枢群へ伝達され動脈血液ガスが一定の範囲に保たれるという,いわゆるネガティブフィードバック機構を有する.神経調節系は,肺・気道系に分布するslowly adapting stretch receptor,イリタント受容器,C線維末端,呼吸筋に分布する筋紡錘を介して作用する.行動調節系は,高位中枢から呼吸中枢群へ影響を与えるものであり,興奮,不安,ストレスなどの感情の変化や精神的緊張による呼吸への影響が含まれる.
2)呼吸困難の発生メカニズム:
呼吸困難は,呼吸筋を運動させようとする指令(呼吸運動出力もしくは呼吸ドライブ)と,実際に可動する呼吸筋の長さ(呼吸筋メカニクス)との間に不一致が生じる際に関知するととらえることができる(長さ-張力不均衡説).つまり,呼吸ドライブが強いにもかかわらず呼吸運動が追従できないときに呼吸困難が生じやすくなる.また,呼吸困難は「呼吸の努力感」と同一のものであり,呼吸中枢からの呼吸ドライブ(motor command)と同一強度の情報が感覚中枢へ投射(コピー)されることで,この呼吸ドライブの増加を呼吸困難と認識するとも説明される(モーターコマンド説).
評価法
呼吸困難は主観的な感覚であり,客観的に評価することは困難である.実際の臨床の現場ではおもに労作時の呼吸困難の程度を評価するため,いくつかの評価法が用いられている.
1)
Fletcher-Hugh-Jones分類
(表2-31-1): 簡便であるため日本では広く臨床の場で用いられている.呼吸困難そのものの評価ではなく,患者の日常生活における運動能力の指標であるため,呼吸困難以外の要因にも影響されやすいことを念頭におくべきである.
2)Medical Research Council(MRC)息切れスケール:
呼吸困難を評価する指標として世界的に使用されており,日本でも推奨されるべきものである.オリジナルのBritish Medical Research Council息切れスケールは患者への質問表として用いられ,1から5の5段階に分類されていたが,最近では0から4の5段階にシフトさせたMRC息切れスケールが使用されることが多い(表2-31-2).
3)6分間歩行テスト:
患者自身の任意の速度で6分間に歩行できる最大の歩行距離を評価するものである.通常は歩行距離とともに,経皮的酸素飽和度(SpO2)の運動前値と運動時最低値を同時に評価する.途中で休むことは可能であるが,制限時間内に最大限の距離を歩くように説明する.Fletcher-Hugh-Jones分類と同様,呼吸困難以外の要因も影響する.繰り返し測定することで,慢性呼吸器疾患患者における治療効果の判定や臨床経過の把握に有用である.最近では9 mの標識間をCDの発信音にあわせて往復歩行するシャトルウォーキング試験が行われることもある.
4)カテゴリーによる定量的評価(図2-31-2):
Borgスケールやvisual analog scale(VAS)などがあり,感覚の絶対的な強さを客観的に評価することができる.Borgスケールは呼吸困難の程度をおよそ10段階のカテゴリーに分けたとき,患者が自覚する呼吸困難の程度がどこの位置にあるかを判定する.しばしば運動負荷試験に際して用いられる.VASは10 cm(あるいは15 cm)の水平線を患者に示し,呼吸困難をまったく感じない状態を左端,非常に強く呼吸困難を感じる状態を右端としたとき,患者が感じる呼吸困難の程度に応じて任意のところに印をつけてもらい,左端からの距離で呼吸困難の程度を評価する.いずれの指標も重症度判定や治療の効果判定に有用である.
鑑別診断
まず緊急性があるかどうかを判断し,緊急性がある場合は診断と治療を並行して行う.病歴,身体所見,画像所見,呼吸機能その他の検査結果を参考にして鑑別診断を進める(図2-31-3).
1)病歴:
a)呼吸困難の時間経過:突発性か,急性進行性か慢性か,反復性かを参考にして鑑別を進める.突発性の呼吸困難の原因は,気胸や肺血栓塞栓症,急性心筋梗塞による呼吸困難などがある.急性のものには急性左心不全,細菌性・ウイルス性肺炎,急性間質性肺炎などがある.慢性閉塞性肺疾患(COPD)や肺線維症,慢性心不全などは慢性に進行する呼吸困難が出現するが,急性増悪時には急速に呼吸困難が進行する.また気管支喘息や狭心症に伴う呼吸困難,過換気症候群などでは発作性の呼吸困難を繰り返す.
b)呼吸困難の誘因:
労作時に増悪:ほとんどの呼吸困難はまず労作時に症状が出現し,病状が進行すると安静時にも呼吸困難が出現するようになる.呼吸器疾患だけではなく,労作性狭心症なども鑑別する必要がある.
時間帯による増悪:気管支喘息では夜間~早朝に喘鳴・呼吸困難発作が出現しやすい.
体位による増悪:うっ血性心不全,気管支喘息などでは仰臥位,片側胸水,無気肺,気管内腫瘍などでは側臥位,肝肺症候群などでは座位で呼吸困難が増悪する.
c)随伴症状:
前胸部絞扼感:狭心症,心筋梗塞など
胸痛:心膜炎,肺炎,胸膜炎,気胸,肺血栓塞栓症など
その他,発熱や咳の有無,痰の性状などに注意する.
2)身体所見:
速くて浅い呼吸(肺胸郭系のコンプライアンスが低下しているか,痛みで大きく息を吸えない状態):間質性肺炎,うっ血性心不全,肺血栓塞栓症,気胸
速くて深い呼吸:糖尿病性ケトアシドーシス,急性腎不全,過換気症候群
喘鳴と呼気延長,口すぼめ呼吸:気管支喘息,COPDなどの閉塞性肺疾患
その他,聴診所見(呼吸音,心音),チアノーゼ, ばち指,浮腫の有無,胸郭の変形などに注意する.
3)胸部画像所見:
過膨張と肺野の透過性亢進:気腫型COPD
びまん性間質性陰影,すりガラス陰影,蜂巣肺,肺野の縮小:肺線維症,間質性肺炎
肺動脈の拡張と肺野血管影の減少:肺血栓塞栓症
バタフライ型浸潤影と心拡大:うっ血性心不全,肺水腫
その他,浸潤影,胸膜肥厚,気胸や胸水などに注意する.
4)呼吸機能検査所見:
拘束性障害(肺活量の低下):肺線維症,神経筋疾患
閉塞性障害(1秒率,1秒量の低下):気管支喘息,慢性閉塞性肺疾患
肺拡散障害(DLcoの低下):肺線維症,COPD,肺血栓塞栓症,肺高血圧症,貧血
その他,血液ガス分析による低酸素血症,高炭酸ガス血症,低炭酸ガス血症,アシドーシスの有無に注意する.
5)その他の検査:
血液検査における炎症反応の有無,心電図による心筋虚血や右心負荷の有無,心エコーによる左心機能の評価,右室の拡張,心室中隔の奇異性運動なども呼吸困難の鑑別に重要である.
代表的疾患
1)
慢性閉塞性肺疾患
(chronic obstructive pulmonary disease:COPD): 喫煙歴があり,咳や痰が多く,慢性的に進行する労作時の呼吸困難を自覚する場合は本症を疑い,呼吸機能検査を施行する.ビア樽様の胸郭,口すぼめ呼吸,ばち指などをしばしば認める.必ずしも,安静時に低酸素血症や高炭酸ガス血症を伴わない.そのような場合でも労作時の呼吸困難が著しいのが特徴である.その原因は,労作時の低酸素血症だけではなく,動的肺過膨張に起因するものが大きい.COPD患者では呼気閉塞を伴うため,労作時の呼吸運動出力の増大の際に,十分な呼気が終了する前に吸気が開始され肺過膨張の増悪を招く.このような状況下では,横隔膜がより低位となり効率よい収縮が障害されるため,さらなる呼吸運動出力の増大がもたらされ呼吸困難が増悪する.気管支拡張薬や酸素療法により,部分的であれ動的肺過膨張が改善すると労作時呼吸困難が軽減する.
2)
肺線維症:
吸気末期にfine cracklesを聴取し,胸部X線,CTにて両側性の間質性陰影を認める.拘束性障害と肺拡散障害により,安静時の低酸素血症とともに,労作時の低酸素血症が顕著となる.酸素投与により労作時の呼吸困難を軽減させることができる.
3)
気管支喘息:
夜間~早朝や運動時に発作を生じることが多い.著明な低酸血症が存在しなくても,気道抵抗の増大により強い呼吸困難を生じる.中等度以上の発作では起坐呼吸をきたす.
4)
急性肺血栓塞栓症:
術後や長期臥床中の患者の体動後,長時間の飛行機搭乗後などに多く発症し,突発性の呼吸困難をきたし胸痛を伴うことが多い.肥満や担癌状態も危険因子となる.PaCO2の低下を伴う低酸素血症を認める.突発性の呼吸困難と低酸素血症があり,胸部X線にて肺野に明らかな異常を認めないときは,鑑別診断として本症の疑いをもつことが大切である.
5)うっ血性心不全,肺水腫:
労作時呼吸困難や起坐呼吸が認められる.肺うっ血や肺間質内での水分貯留により,肺コンプライアンスが減少し肺活量が低下する.また肺間質の浮腫により拡散障害が生じるために低酸素血症が悪化する.さらにC線維末端の刺激により頻呼吸を伴い呼吸困難が増悪する.[木村 弘]
■文献
American Thoracic Society: Dyspnea. Mechanisms, assessment, and management: a consensus statement. Am J Respir Crit Care Med, 159: 321-340, 1999.
Celli BR W, MacNee W, et al: Standards for the diagnosis and treatment of patients with COPD: a summary of the ATS/ERS position paper. Eur Respir J, 23: 932-946, 2004.
木村 弘,栗山喬之:息切れ,呼吸困難.内科鑑別診断学,第2版,pp429-438,朝倉書店,東京,2003.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報
呼吸困難 (こきゅうこんなん)
dyspnea
心臓・肺の病気に際して最もしばしば認められる症状の一つで,呼吸の必要性,困難さ,不愉快さを自覚すること。この意味では,自覚症状の一つである。しかし,たとえば昏睡状態の患者で,苦悶の状態で,呼吸補助筋までも動員して努力性の呼吸をしている場合も,他覚的に呼吸困難があるとする学者も多く,統一されていない。また呼吸困難は〈息ぎれ〉の程度の強いものとすることが多いが,まったく同義の語として用いる人もある。
発生機序
すべての場合に当てはまる説明はない。しかし,呼吸筋収縮努力に際して発生する張力と,その結果得られる筋収縮量とのアンバランスによるとするキャンベルE.J.M.Campbellらの説(長さ-張力不適合説)が最も一般的である。このほかに,呼吸筋の機械的仕事量の増加によるとするもの,呼吸中枢の異常興奮,呼吸筋に対する酸素供給量の不足,動脈血中酸素欠乏,二酸化炭素過剰,血液の酸性化などの血液化学組成の変化など,いろいろな発生機序が挙げられている。
分類
呼吸困難は体動によって出現し,増強するもの(労作時呼吸困難)が多いが,じっとしていても起こる場合がある(安静時呼吸困難)。労作時呼吸困難は重症になるほどわずかの体動で呼吸困難が出現し,動くことができなくなるので,表のように,可能な運動の程度によって,労作時呼吸困難の重症度を1度から5度の5段階に分ける。呼吸困難はまた,出現の仕方で,自然気胸や肺塞栓のように突発的に起こるもの,気管支喘息(ぜんそく)のように繰り返し発作的に起こるもの,慢性肺気腫,肺繊維症,呼吸筋麻痺,心不全などのように持続的に起こるものに分けられる。呼吸困難は一般に,吸気時,呼気時ともに存在する。しかし,喉頭,頸部気管などの上気道に狭窄があると,気道内圧は吸気時に周囲の組織の圧より陰圧になるため狭窄が強められるが,呼気時には気道内圧が周囲より陽圧になるため狭窄は軽減され,呼吸困難は吸気時に出現する(吸気性呼吸困難)。対照的に,胸郭内の気管・気管支に狭窄のある場合は,圧力関係は上気道の場合とまったく逆になり,呼気時に狭窄が増強され,呼気性呼吸困難を生ずる。
原因となる病気
呼吸困難の程度は,呼吸機能障害とは必ずしも並行しないが,呼吸機能障害の著しい病気で認められることが多いのも事実である。呼吸機能障害としては,肺への空気の出入に際しての抵抗が増加する閉塞性障害(たとえば,気管支喘息,慢性肺気腫,慢性気管支炎,喉頭気管の狭窄),肺が硬くなるために肺の膨張が十分に行えない拘束性障害(たとえば,肺繊維症,心不全,胸膜肥厚,胸郭成形術),肺胞から肺毛細血管への酸素の取りこみが障害される肺拡散障害(たとえば,肺繊維症,膠原(こうげん)病の肺病変),肺の各部への空気の出入と血流とのバランスの不均等性の増加,すなわち換気血流比障害(慢性気管支炎,肺繊維症など),肺動脈の狭窄,閉塞(肺血流障害,血栓が流れてきて血管を閉塞する肺塞栓症,原発性肺高血圧症など)がおもなものである。呼吸筋の萎縮・麻痺(小児麻痺,ギラン=バレー症候群など)では,主として拘束性障害を起こし,呼吸困難の原因となる。さらに,呼吸機能が正常でも,吸気中の酸素欠乏,著しい貧血,一酸化炭素中毒,糖尿病性アシドーシス,腎不全によるアシドーシス,アセチルサリチル酸(アスピリン)中毒,心身症などでは,持続的あるいは発作性の呼吸困難がみられる。
治療
以上のように呼吸困難の原因はきわめて多彩であるので,原病に対する治療,呼吸機能障害があれば,その障害に対する治療が行われる。診断には,病歴,打聴診所見,胸部X線写真,スパイログラムspirogram,血液ガス分析がとくに有用である。呼吸機能障害による呼吸困難には,まず酸素吸入が行われるが,もともと慢性的に閉塞性の肺の病気があって悪化している場合は,大量の酸素を吸入させると,呼吸が抑制されて蓄積した二酸化炭素の麻酔作用により意識障害を起こす,いわゆるCO2ナルコーシスをひき起こすことがあるので注意がいる。酸素を吸入しても,動脈血の酸素濃度が十分上がらないか,二酸化炭素の体内蓄積による血液pHの低下がある場合,とくに昏睡の場合はレスピレーター(人工呼吸器)を使用することになる。モルヒネなどの呼吸中枢抑制薬は,呼吸困難の感覚を軽減するが,呼吸機能障害のある場合はCO2ナルコーシスの誘因となることから,使用できない場合が多い。
→呼吸 →呼吸機能検査
執筆者:白石 透
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
呼吸困難
こきゅうこんなん
息をするのに苦痛を感じる感覚を表現する自覚症状で、息切れとほとんど同義的に用いられる。健康人では駆け足などの激しい運動時や高山に登ったときなどだけにみられるが、肺や心臓の疾患で換気や血流に異常があると、わずかな運動や安静時にも呼吸困難が現れる。この成因による分類として、しばしばフレッチャーFletcherの分類が用いられている。
(1)換気が高度に増加していることを自覚したときにみられる呼吸困難では、換気と酸素消費がともに増すが、両者のバランスが正常に保たれている場合と、保たれていない場合とがある。前者には健康者の運動時に現れる呼吸困難、発熱時や甲状腺(せん)機能亢進(こうしん)症、代謝性アシドーシスなどにみられる呼吸困難が該当し、後者には肺塞栓(そくせん)症、びまん性肺浸潤、高地での低酸素換気状態、過換気症候群などのときの呼吸困難が該当する。
(2)換気が困難であることを自覚したときに生ずる呼吸困難では、閉塞性換気障害と拘束性換気障害に区別できる。前者としては上気道の閉塞、閉塞性肺疾患などがあり、後者には呼吸筋の障害、胸壁の障害、肺実質および間質性疾患などがある。
(3)より多くの換気が必要であることを自覚したときの呼吸困難は、神経麻痺(まひ)などによって換気が減少している患者にみられる。この種の呼吸困難の意識は、息こらえの終わりの時期に感ずる感覚と似ているといわれる。
自覚的呼吸困難の程度の分類としては、5段階に分けたヒュー‐ジョーンズHugh-Jones分類が用いられる。すなわち、Ⅰ度とは、同年齢の健常者と同様の労作が可能で、歩行、階段の昇降も健常者並みにできる程度の呼吸困難をいう。以下、Ⅱ度とは、同年齢の健常者と同様に労作ができるが、坂や階段の昇降は健常者並みにはできない程度のもの。Ⅲ度とは、平地でも健常者並みには歩けないが、自分のペースなら1キロメートルは歩ける程度のもの。Ⅳ度とは、休み休みでなければ50メートル以上歩けない程度のもの。Ⅴ度とは、話したり着物を脱いだりするのにも息切れがする程度のもので、息切れのため外出もできない。
呼吸困難の意識を表現する動作として、臥床(がしょう)している者では二枚重ねの掛けぶとんを1枚にしたり、これをはねのけたり、着衣の胸をはだけて呼吸運動の妨げとなりうるものをすべて取り除いたりする。これらの多くの場合は、心因性で無意識に行われているのが普通である。過呼吸、起坐(きざ)呼吸、努力呼吸、吸気延長、呼気延長など、さまざまな呼吸形式の異常がみられるが、これらは呼吸困難発生に至る機序の相違や、背景にある呼吸機能障害の性格の違いによってそれぞれ異なった徴候を形成するためである。また異常呼吸の随伴徴候として、たとえば過換気症候群では、手や顔の麻痺、しびれ感、けいれんなどがみられる。呼吸機能障害に対する代償不全徴候としては、チアノーゼ、太鼓ばち指(指先が太鼓のばち状に肥大する)や頻脈などがみられる。呼吸困難を治癒させるためには、いかなる疾患によるものか、あるいは原因がなんであるかの鑑別が重要で、治癒を左右することになる。原因がなんであれ、不可逆性の慢性低酸素血症を伴う呼吸困難は、在宅酸素療法(HOT:home oxygen therapy)の適応となる。
[山口智道]
『岡安大仁編『呼吸困難とその対策』(1989・医学書院)』
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
呼吸困難
こきゅうこんなん
dyspnea
呼吸運動に努力を要し,困難を伴う状態をいう。過重な労作による呼吸困難は健常者でも感じるもので,特定の障害を意味しない。正常な呼吸運動には,1分間に 15回,肺に空気が適当に流入し,胸部,横隔膜および呼吸筋が健常で,肺,胸膜の弾力や,それらの神経支配も正常であることが必要である。したがって,これらのいずれかに障害があると呼吸困難になる。原因別に,肺性呼吸困難,心臓性呼吸困難,閉塞性呼吸困難,血液性呼吸困難,神経性呼吸困難,心因性呼吸困難などに分類できる。呼吸困難のためにガス交換が阻害され,血液中の二酸化炭素増加,pH低下が起ると,延髄の呼吸中枢が働いて過呼吸となり,次いで,異常に深くて速い呼吸 (クスマウルの大呼吸) がみられるようになる。
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呼吸困難【こきゅうこんなん】
種々の心臓・呼吸器疾患時に最も多くみられる。安静時呼吸困難は心臓疾患に多く,鬱血(うっけつ)性心不全の場合は臥位(がい)ではいっそう苦しく,患者は上体を直立させようとする(起座呼吸)。慢性肺疾患では気管支炎などが加わると顕著となる。急性呼吸困難は,気胸,気管支喘息(ぜんそく),種々の気道閉塞(へいそく)の際に起こる。治療は原疾患の治療のほか,呼吸中枢を刺激するカフェイン,カンフルなどの投与,鎮静するモルヒネなどの投与,酸素補給,気道切開。
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世界大百科事典(旧版)内の呼吸困難の言及
【息ぎれ】より
…これを息ぎれという。類似した用語に〈[呼吸困難]〉があり,息ぎれの程度が強く,不愉快な感覚を伴う場合に用いられることが多いが,息ぎれとまったく同義の語として用いる人も多い。
[種類]
息ぎれは,体動によって出現あるいは増強することが多いが,安静時に認められることもある。…
※「呼吸困難」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」