翻訳|ad-lib
ラテン語のad libitum(思うままに,気の向くままに)に由来する上演芸術の用語。原語の意味が示すとおり,演者の行うかなり気ままな要素を指す。演劇の場合,あらかじめ綿密に書き込まれた台本があり,一定の稽古を積んでせりふや演技もできあがった舞台で,上演の際,その場の雰囲気や観客の反応などに応じて,台本のコースをはみ出してせりふや身振りなどを気分的に演じることをいう。台本の文学的価値を重んじる傾向のある現代劇や,様式の固定した伝統演劇などでは,アドリブは舞台を損なうものとみなされ,はいり込む余地はほとんどない。しかし,台本の内容よりも俳優の個人的魅力に負うところの多い大衆演劇ではむしろ好まれ,積極的にアドリブを得意とするボードビリアンも少なくない。
執筆者:斎藤 偕子 音楽用語としても同様に,原曲を離れて奏者がその場の気分に応じて自由に演奏することを意味する。限られたカデンツァなどの場合以外は即興的な演奏を許さないクラシックから見て,アドリブを大幅に認めるのはジャズの特殊性であるかのようにかつて考えられていたが,楽譜を用いることの少ない民衆音楽では,アドリブの要素を大なり小なり含むのが一般的である。古典音楽でもインドやアラブなどのものは,アドリブの巧拙が奏者の評価を決定づける。
執筆者:中村 とうよう
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