改訂新版 世界大百科事典 「アナツバメ」の意味・わかりやすい解説
アナツバメ
cave swiftlet
アマツバメ目アマツバメ科アナツバメ属Collocaliaに属する鳥の総称。多くは洞窟内で集団営巣するためこの名がある。ツバメの名はあるがスズメ目のツバメ類とは系統が異なる。東南アジアを中心にヒマラヤからオーストラリア北部まで分布する。このうちの数種の巣は,中国料理で燕窩(イエンウオ)(燕の巣)として食用に供されることで有名。ツバメ類が泥で巣をつくるのに対し,アマツバメ科の鳥は泥をまったく使わず,羽などを唾液で固めて巣をつくるが,とくにアナツバメ類の数種は繁殖期に唾腺が異常に発達し,粘性の高いのり状の唾液を多量に分泌して,ほとんどこれだけで巣をつくる。乾くと白色半透明の寒天質となる。これを採取しスープの材料にする。主成分は糖タンパク質である。燕窩は鳥の種類や状況によって唾液の質や混入物の量に差があり,白色で混入物のないものがもっとも高価に取引される。営巣地は海岸や内陸部の石灰岩の絶壁などにある大小の洞窟で,巨大なものは天井まで50m以上もあるものがある。そうした洞窟に数種が混群で数万羽から100万羽以上のコロニーをつくって一年中生息している。明け方に怒濤(どとう)のごとく大群が飛び出し,終日飛びながら小昆虫を捕食する。大部分は夜までに戻るが,洞窟の入口は24時間鳥の出入りがある。夜間や洞窟奥部の暗黒内では,1.5~5.5kHzのキーというやかましい鳴声を連続的に発し,その反響を利用して安全・正確に飛行している。しかし,洞窟の入口近くの明るいところに営巣するシロハラアナツバメC.esculentaなどは音波を利用する能力がない。アナツバメ類は種の判定がむずかしく,学者により20種以上とも,またその半分ぐらいともいい,分類が確定していない。ほとんどの種が全身黒褐色で,腹や腰に白色部のあるものもある。翼は鎌状に長く,尾は短く角尾か凹尾である。最大のオオアナツバメC.gigasで全長約17cm,最小のシロハラアナツバメで約10cm。白色良質の巣をつくるシロスアナツバメ類のC.vestitaなどは全長約13cm,全身黒色。羽などの混入物が多くて品質の劣る巣をつくるのはクロスアナツバメC.maximaで,やや大きいが酷似する。これらは皆,完全な暗黒の奥壁に舟形の巣をつくり,白色長楕円の卵を1~2卵産卵,3~4週間抱卵し,1.5~2.5ヵ月育雛(いくすう)する。巣の採取はボルネオやジャワが中心で年2~3回。高い足場の上での危険な作業である。巣の採取や自然落下,あるいは食物不足による餓死などで雛の巣立率は年10巣当り2.5羽という低率だが,鳥の全体数は減っていないという。なお,従来使用されていたショクソウアナツバメという和名は,食巣種が1種に限定されないので不適当である。また,燕窩を海燕の巣と記したものをよく見かけるが,これは完全な誤りである(ウミツバメ類は地中に穴を掘って産卵する)。
執筆者:内田 康夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報