植物ホルモンの一種。アメリカでアディコットF.T.Addicottらによってワタの実の落果時の離層形成を引き起こす物質は何かを追究する一連の研究が行われ,このなかで大熊和彦らがこの物質をワタの未熟な果実から単離し,構造を決定し,アブシジンⅡと命名した(1965)。その翌年,コーンフォースJ.Cornforthらが合成によってその構造を確認した。他方,これとはまったく独立にイギリスでは,ウェアリングP.F.Wareingらによって,カエデAcer pseudoplatanusの芽の休眠を引き起こす物質は何かを追究する研究が行われており,かれらはこの物質を結晶状にとり出し,ドーミンdorminと命名した(1965)。やがて,一見まったく異なるように思われるこれら二つの生理学的現象を引き起こす物質が,実は同一のものであることがわかり,以後アブシジン酸と呼ばれることとなった。
高等植物に広く分布し,とくに未熟な果実や休眠種子に多く含まれる。合成品はRSラセミ体であるが,天然物はS型である。天然にはグルコース配糖体としても存在する。セスキテルペン(炭素数15のテルペン)の一種で生体内ではメバロン酸から合成される。
しばしばジベレリンと拮抗的な働きをするが,ジベレリンもメバロン酸から合成されるので,細胞内に両者の合成速度の比を調節する機構が存在するものと思われ興味深い。
定量法としては,化学的方法と生物検定法がある。化学的方法は,天然に存在するのはS型だけであるので,その旋光度を測定する方法と,もう一つはガスクロマトグラフィーによる方法である。生物検定法としては,ワタの芽生えを用いて離層形成促進を測るものがある。
生理活性は(1)種子,球根,頂芽,側芽の発芽を抑制する。発芽だけでなく,多くの場合,幼葉鞘(ようようしよう),葉条,胚軸,根の生長を阻害する。(2)植物組織の老化を促進する。この物質が関与して引き起こされる離層形成の場合も,この物質が離層形成の直接の原因となるのではなく,老化促進の結果ではないかと考えられている。(3)長日植物の花芽誘導を阻害し,短日植物のうちこの物質によって栄養生長が抑制されるようなものでは花芽形成が促進される。(4)気孔を閉じさせる。植物の水分が不足するとこの物質が急速に合成され,気孔が閉じる。このような形で水分調節にも関与している。
この物質は細胞の活動を抑える方向に働くようにみえるが,そこへ至る作用メカニズムとしては,たとえばジベレリンが誘導するα-アミラーゼの合成を阻害する場合のように,この酵素の合成を阻害する物質(ある種のタンパク質)を積極的に合成する働きをしているものと考えられている。
執筆者:辻 英夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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…エスレルはpH4以上で容易にエチレンを放出し,果実などの着色促進,熟期促進,落葉促進効果を示す。なお,植物ホルモンの1種であるアブシジン酸は,現在植物生長調節剤として使用されてはいないが,今後実用化が期待されている。植物ホルモン【高橋 信孝】。…
※「アブシジン酸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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