日本大百科全書(ニッポニカ) 「メバロン酸」の意味・わかりやすい解説
メバロン酸
めばろんさん
mevalonic acid
3,5-ジヒドロキシ-3-メチル吉草酸。コレステロールは生体中で酢酸より合成されるが、ある種の乳酸菌において合成培地より酢酸を除去すると生育ができなくなる。この酢酸にかわる因子として発見・分離されたのがメバロン酸である(1956年、アメリカ・メルク社の研究グループによる)。一方、これとほぼ同時に、清酒に繁殖してこれを変敗させる火落(ひおち)菌より同様の不可欠生育因子が発見され、これをコウジカビの培養濾液(ろえき)より分離し、火落酸と命名した。これがメバロン酸と同一物質であることが1958年田村学造(1924―2002)らによって確認された。このメバロン酸がスクアレンを経てコレステロール生成を行うことが、肝破砕液を用いて証明された。コレステロール生合成の経路の大筋は、酢酸→ヒドロキシメチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA=β-hydroxy-β-methylglutaryl coenzyme A)→メバロン酸→スクアレン→コレステロールと示すことができる。動物におけるコレステロール合成の初期段階はメバロン酸生成反応と考えられており、メバロン酸の発見はコレステロール生合成の解明をもたらしたともいえる。メバロン酸はHMG-CoAがHMG-CoA還元酵素によって還元されて生成するが、この酵素の阻害剤の数種はコレステロール低下作用が強いことから、脂質異常症の治療薬として広く用いられている。
[飯島康輝]
『栃倉辰六郎他監修『発酵ハンドブック』(2001・共立出版)』