アベマリア(読み)あべまりあ(英語表記)Ave Maria

翻訳|Ave Maria

デジタル大辞泉 「アベマリア」の意味・読み・例文・類語

アベ‐マリア(〈ラテン〉Ave Maria)

聖母マリアをたたえ、神へのとりなしを願うカトリック教会の祈りの言葉。天使祝詞
1祈祷きとう文に基づく声楽曲。シューベルトグノーらの作品が有名。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「アベマリア」の意味・読み・例文・類語

アベ‐マリア

  1. 〘 名詞 〙 ( [ラテン語] Ave Maria ) キリスト教で、聖母マリアを祝福賛美して、「マリアに栄えあれ」と祈ることば。また、これをテーマとした歌曲。天使祝詞。
    1. [初出の実例]「弟 びるぜんさんたまりやに申あげ奉るさだまりたるおらしょありや。師 あべまりやといふおらしょなり」(出典:どちりなきりしたん(一六〇〇年版)(1600)四)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「アベマリア」の意味・わかりやすい解説

アベ・マリア
Ave Maria[ラテン]

(1)カトリック教会の祈禱文の一つ。〈天使祝詞〉と呼ばれる。〈アベ〉とは本来〈やあ!〉〈おめでとう〉といったあいさつの間投詞。この祈りの原型は,東方教会では6世紀から,西方教会では7世紀初めから典礼に用いられた。カトリック教会の現行の詩句は《ルカによる福音書》1章28節と42節からとられた祝詞と,15世紀に付加された聖母への祈願から成っている。聖母の神学的評価の異なるプロテスタント教会では用いられない。

(2)〈アベ・マリア〉の祈りを歌詞あるいは標題とする楽曲。10世紀にグレゴリオ聖歌として現れ,以後多くの作曲家によって作られた。特に15~16世紀に多声合唱曲の形で作られたものが多く,ジョスカン・デ・プレ,アルカデルト,T.L.deビクトリア,A.ウィラールトのものが有名。〈アベ・マリア〉と題されたミサ曲もパレストリーナなどによって作られた。19世紀にはグノーが,バッハの《平均律クラビア曲集》第1巻の前奏曲ハ長調を伴奏に用いて〈アベ・マリア〉を作曲し,またベルディは歌劇オテロ》の第4幕で,デズデーモナに〈アベ・マリア〉を歌わせている(なお,シューベルトのものはカトリック教会の詩句ではなく,W. スコットの詩のドイツ語訳を用いており,歌詞の性格は他と異なる)。歌詞とその訳は,次のとおりである。

 Ave Maria,gratia plena,/Dominus tecum,/benedicta tu in mulieribus,/et benedictus fructus ventris tui,Jesus./Sancta Maria,Mater Dei,/ora pro nobis peccatoribus,nunc et in hora mortis nostrae.Amen.

 めでたし,聖寵充ち満てるマリア,主御身(おんみ)と共にまします。御身は女のうちにて祝せられ,御胎内の御子イエズスも祝せられ給う。天主の御母聖マリア,罪人なるわれらのために,今も臨終の時も祈り給え。アーメン(カトリック中央協議会編《公教会祈禱文》による)。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アベマリア」の意味・わかりやすい解説

アベ・マリア
あべまりあ
Ave Maria

カトリック教会の祈祷(きとう)文で、「天使祝詞」とよばれる。主の祈り、栄唱とともに重要視され、仕事や食事の前後などに祈る。「めでたし聖寵(せいちょう)満ち満てるマリア、主御身(おんみ)とともにまします。御身は女のうちにて祝せられ、御(ご)胎内の御(おん)子イエズスも祝せられ給(たも)う(〔1〕)。天主の御母聖マリア、罪人(つみびと)なるわれらのために、いまも臨終のときも祈り給(たま)え。アーメン(〔2〕)」が全文である。〔1〕は天使の挨拶(あいさつ)とエルサレムの祭司ザカリアの妻エリザベトの祝福の引用(「ルカ伝福音(ふくいん)書」1章の28、42)と修正からなり、〔2〕は教会が追加した希願文から構成されている。起源は4世紀で、聖ヤコブの典礼に表れているが、その後4回の補充を経て17世紀初期に現在の形式に整った。1198年のパリ教会会議で「アベ・マリア」を祈ることが信徒の義務と規定された。Aveの語義は、ブルガータ訳聖書の「めでたしマリア、聖寵満ち満てるもの」Ave Maria gratia plena(「ルカ伝福音書」1章の28)のラテン語に由来し、動詞avēreの命令形。「ようこそ」「いらっしゃい」「さようなら」などの意味をもち、ローマ時代の日中の挨拶のことばで、原義は「幸福である」「健康である」と解され、英語のfarewell(「ごきげんよう」「さようなら」)に対応する。

 この祈祷文が信者の生活に定着してゆく過程で、絵画ではジョットらの『受胎告知』のモチーフとなり、音楽では名曲『アベ・マリア』が生まれた。合唱曲ではベルディとブラームス、独唱曲ではグノーの作品が有名で、シューベルトの曲は祈りとは異質なスコットの創作詩『湖上の美人』の一節を歌詞としたものである。

 母性的原理としてのマリア信仰は厳密な教義では認められないが、「アベ・マリア」はマリアへの尊敬と甘えを強める一方で、信者の日常の祈りの内容を限定化させている。

[川又志朗]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アベマリア」の意味・わかりやすい解説

アベ・マリア
Ave Maria

ローマ・カトリックの祈祷文で,『ルカによる福音書』1章 28の大天使ガブリエルの祝詞と同 42の洗礼者ヨハネの母エリザベトの祝詞に由来する。 15世紀に「罪人たるわれらのために,いまも臨終のときも祈りたまえ。アーメン」が付加された。祈祷文に作曲された多くの音楽作品のほか,詩人が手を加えた歌詞による独唱歌曲 (シューベルト) ,合唱曲 (メンデルスゾーン) などがある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のアベマリアの言及

【グノー】より

…彼の作品の中心を占めるオペラは,《ファウスト》以外は,ほとんど忘れ去られているが,それまでの表現過多なグランド・オペラを排し,美しい旋律と節度ある表現によるフランス独自のオペラ・リリックを発展させた点で重要である。また,いわゆる〈グノーのアベ・マリア〉(バッハ《平均律クラビア曲集》の前奏曲第1番に歌詞とメロディをつけたもの)を代表とする歌曲のジャンルにおいては,当時流行したサロン風のロマンスから脱し,真に芸術的な新しいフランス歌曲,すなわち〈メロディ〉を確立するのに成功した。作品はオペラのほか,付随音楽,2曲の交響曲,室内楽曲,ピアノ曲,約20曲のミサ曲,数多くの歌曲など広範囲に及ぶ。…

【ロザリオ】より

…カトリック教会の用語で,次の二つの意味がある。(1)キリストの生涯の15のおもなできごとを,救いの秘義として〈喜び〉と〈苦しみ〉と〈栄光〉の3種に分け,各秘義にそれぞれ〈主の祈り〉1回とアベ・マリア回を唱えながら黙想する祈りの方法。ロザリオという名称はキリシタン時代から用いられ,原語であるラテン語のrosariumは,〈ばらrosaで編まれた花冠〉の意。…

※「アベマリア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

配属ガチャ

入社後に配属される勤務地や部署が運次第で当たり外れがあるという状況を、開けてみなければ中身が分からないカプセル玩具やソーシャルゲームで課金アイテムを購入する際のくじに例えた言葉。企業のネガティブな制...

配属ガチャの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android