アルチュセール(読み)あるちゅせーる(英語表記)Louis Althusser

日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルチュセール」の意味・わかりやすい解説

アルチュセール
あるちゅせーる
Louis Althusser
(1918―1990)

マルクス主義の現代的活性化を試みたフランスの哲学者。アルジェリアに生まれ、パリのエコール・ノルマル・シュペリュール(高等師範学校)でバシュラールに就いてヘーゲル哲学を研究し、のち母校で哲学を講じる。マルクス主義における科学と哲学との関連の固有な構造を検出することが、彼の学問的営為の基礎をなす。マルクスの思想を初期の人間論、疎外論に還元することを拒否して、その思想の特質イデオロギーからの「認識論的切断」にあることを力説し、また他方、マルクスの主著資本論』を単なる経済的機構分析の書として読む傾向に反対して、それを資本制的生産様式の構造論、社会諸階級の対抗の書として読むことの必要性を強調している。精神分析学から援用した「重層的決定」surdétermination、または「構造的因果性」causalité structuraleという鍵(かぎ)概念に基づき、従来のマルクス主義の一元的「土台‐上部構造」論への異議申し立て、マルクスに欠如していた国家論、イデオロギー論の新たなる構想など、斬新(ざんしん)な理論活動を進める。1967年ごろより自らの哲学的立場をテオリー(理論)偏重だと自己批判しつつ、理論における階級闘争視座前面に押し出してくる。その一表現として、彼の政治的実践は、フランス共産党内部から、同党のプロレタリア独裁概念の放棄、同党の革命戦略、組織原則に対する批判として展開される。

 主著に『甦(よみがえ)るマルクス』(1965)、『資本論を読む』(1965)、『科学者のための哲学講義』(1967)、『国家とイデオロギー』(1970)、『自己批判』(1974)、『共産党内でこれ以上続いてはならないこと』(1978)がある。

[安孫子誠男 2015年5月19日]

『河野健二・田村俶訳『甦るマルクス』Ⅰ・Ⅱ(1968・人文書院)』『L・アルチュセール他著、権寧・神戸仁彦訳『資本論を読む』(1974・合同出版/今村仁司訳・全3冊・ちくま学芸文庫)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アルチュセール」の意味・わかりやすい解説

アルチュセール
Althusser, Louis

[生]1918.10.16. アルジェリア,ビルマンドレ
[没]1990.10.22. フランス,イブリーヌ
フランスの哲学者。エコール・ノルマル・シュペリュール (高等師範学校) 卒業後,哲学教授資格を取得 (1948) ,ギュスドルフの後任として高等師範学校哲学科教授に就任。第2次世界大戦中の抗独レジスタンス当時から共産党に属し,党内でのイデオロギー刷新をはかった。彼は,『資本論』以前のマルクスの諸著作をヘーゲルの強い影響下にあるとして,これらを『資本論』とは分離して把握し,真のマルクス主義哲学は『資本論』に始るとの立場をとり,マルクスの弁証法は,ヘーゲル的弁証法の一種ではなく,マルクス哲学とヘーゲル哲学との間には間隙が認められると主張。主著『マルクスのために』 Pour Marx (65) ,『資本論を読む』 Lire " Le Capital" (65) 。

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